2017年02月07日

遠藤賢司もリスペクトする「亜麻色の髪の乙女」のオリジナル歌唱者・青山ミチ 

執筆者:丸芽志悟

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本日2月7日は、日本屈指のブルースシンガー、青山ミチの68回目となる誕生日。


少し前、某ベテランロックシンガーが某若手バンドのライヴに行って、自分の持ち歌を断りもなくカヴァーしているのに出くわしたことが発端となって、ちょっとした論争が巻き起こった。前者の言い分は「オリジナル歌唱者にもっとリスペクトを注ぐべき」だったけれど、その論理が正しいのなら、今日のコラムの主役・青山ミチは、されるべきリスペクトが全くされていない不幸過ぎる存在と言い切っておかしくないと思う。


1966年11月、青山ミチはポリドール(日本グラモフォン)に於ける25枚目のシングルとして「風吹く丘で」を発売するかしないかというタイミングで、不祥事を起こし逮捕される。市販盤のコピーが存在することは明らかになっているので、所謂「発売禁止」の処置は受けていないと思われるものの、この不祥事のせいで同曲のレコードは出てないも同然の扱いを受けることとなってしまった。

それから1年ちょっとを経た68年2月、同曲は「亜麻色の髪の乙女」と名を変え、ヴィレッジ・シンガーズのシングルとして登場。大ヒットする。その後もフレンズ、キャメル・ランド、ハロプロの番組から生まれたユニット・ガレージなどによって歌い継がれ、2002年には島谷ひとみのヴァージョンがオリジナルを超える大ヒットを記録した。


そう、青山ミチはオリジナルの更にオリジナルだ。それでも意地を見せることなく、自身に忠実に生きていると思われるのは偉い。そこをリスペクトしたいのだ、筆者は。


49年2月7日、アフロアメリカンの軍人と日本人女性の間に生まれ、恵まれない幼少期を経て13歳で歌手デビュー。海の向こうでビートルズと名乗る4人組が初のレコードを出したのとほぼ同時であった。初シングルのB面ではコニー・フランシスの「ヴァケイション」を取り上げ、弘田三枝子ヴァージョンに比べると溌剌度では劣るものの、すでに独自のノリを全開させる歌唱スタイルを披露している。翌年、6枚目のシングル「ミッチー音頭」で大ブレイク。言葉遊びが冴えまくる歌詞をファンキーに弄ぶ、まさにロックな音頭。89年にエンケンこと遠藤賢司が、これこそオリジナル歌唱者にリスペクト注ぎまくりの名カヴァー「エンケンのミッチー音頭」をリリースしている。プロモ用に配られた同曲のアナログシングル盤は、同じレコード会社から出ているのを利点に、ミチヴァージョンをカップリング。そこでは「元祖女性パンクロッカー」として青山ミチを紹介している。言い得て妙だ。

その後もノベルティ感覚溢れる軽妙な曲、「夢の超特急」など最先端のトピックを織り込んだ曲を次々と歌いこなし、65年にはエミー・ジャクソンの「涙の太陽」の「ローカル盤」をリリース。一部譜割りに変化が見られるとはいえ、のちに安西マリアや田中美奈子が歌った日本語ヴァージョンの「元祖」は青山ミチである。リスペクトされるべき理由が、またひとつ。


前述の不祥事でポリドールを追い出される羽目になったものの(しかしこれで当時17歳とは驚き!)、66年暮れには早々とクラウンに拾われる電光石火の幸運。「風吹く丘で」で穏やかなフォークロックという新境地を見せたものの、あっさりとそれを捨て去り、不幸を歌い込むブルースへと思い切った舵を切る。ポリドール時代にも2曲あったものの、クラウンで出した13枚のシングルのうち7曲のタイトルに「ブルース」という語が登場する。さすがに本場の血が混ざっている分、どれを聴いても重量感充分。もちろん、クラウン時代にも本来の魅力である若々しいグルーヴ感を全開した楽曲がある。ビキニジャケットが眩しすぎる67年の「太陽と遊ぼう」がそれだ。実はクラウン歌手大挙出演作である68年の松竹映画「進め!ジャガーズ 敵前上陸」では、歌唱シーンこそないものの、ジャガーズの演奏に乗ってビキニで踊りまくる彼女の姿が堪能できる。


72年に出したファンキー歌謡の名作「むらさきの京都」を最後にレコードは出ていず、時折スキャンダラスな話題を提供しながらも、あまり表舞台には出ず、隠居生活を送っている。活動期間の短さの割に出したレコードの数が尋常ではない彼女の歌手生活は、エイミー・ワインハウス以上に超特急だったと言えるが、伝記映画を見たいという気分よりまずはもっとリスペクトをという想いの方が先行する。長生きしていただきたいものだ。

≪ 著者略歴≫

丸芽志悟 (まるめ・しご) : 不毛な青春時代〜レコード会社勤務を経て、ネットを拠点とする「好き者」として音楽啓蒙活動を開始。『アングラ・カーニバル』『60sビート・ガールズ・コレクション』(共にテイチク)等再発CDの共同監修、ライヴ及びDJイベントの主催をFine Vacation Company名義で手がける。近年は即興演奏を軸とした自由形態バンドRacco-1000を率い活動、フルートなどを担当。


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