2017年06月06日

稀代のエンターテイナー・堺 正章の音盤ヒストリー

執筆者:鈴木啓之

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タレント、コメディアン、俳優、ミュージシャン、司会者など、多彩な活躍を遂げてきた堺正章は戦後芸能史における特筆すべきエンターテイナーのひとりである。喜劇俳優・堺俊二を父に持ち、幼い頃から芸能界に身を置いていたことで培われた才能と人望は芸能界随一。音楽活動だけを見ても、ザ・スパイダースの一員として、その後ソロとしても多くのレコードやCDを出し続けて既に半世紀以上が経つ。その中には意外な作品や、人々の記憶から忘れられて久しい作品も少なくない。今年で71歳となる6月6日の誕生日を迎えるこの機会に、多くの顔を持つマチャアキこと堺正章の歴史から、歌手・堺正章の部分をピックアップして、日頃あまり触れられない楽曲にも着目してみたい。


父親の堺駿二に連れられて撮影所へ出入りするようになり、子役としてスクリーン・デビューを果たしたのは5歳の時。既に芸歴65年を超えることになる。ザ・スパイダースに加入したのは1962年、16歳の時であった。1965年5月に最初のシングル「フリフリ」を出した頃から若者の間で徐々に人気が高まり、1966年9月に発売された「夕陽が泣いている」が大ヒットすると、メイン・ヴォーカルを担当していた堺の人気もいよいよ全国区となる。日活や東宝で作られたザ・スパイダースの主演映画をはじめ、テレビやステージでも父親ゆずりの抜群のコメディセンスを発揮した“マチャアキ”はお茶の間の人気者となって大活躍した。しかし、堺がコメディアンとしての本領を発揮するのは、1970年いっぱいでスパイタースが解散(実質的には1971年1月の「第43回日劇ウエスタンカーニバル」が最後のステージとなった)してからである。


解散から間もない1971年5月に発売された「さらば恋人」が大ヒットして歌手の代表作となるわけだが、実はスパイダース在籍中から既にソロ・シングルは出しており、1970年4月リリースの「明日を祈る/なんでこんなに」と、同年12月の「悪魔のようなおまえ/月曜日はからっぽ」はいずれも堺正章とザ・スパイダース名義のシングルだった。そして俳優業での代表作のひとつとなるTBSのホームドラマ『時間ですよ』の第1シリーズがスタートしたのも同じ年の2月のことである。名匠・久世光彦の演出・プロデュースによる斬新なドラマでは毎回歌のシーンもあって、劇中歌として出されたシングル「涙から明日へ」(71年9月)、「街の灯り」(73年6月)がいずれもヒット。「涙から明日へ」は久世が小谷夏のペンネームで作詞、ドラマの音楽を担当していた山下毅雄の作曲である。この辺りは年に2~3枚のシングルと並行してアルバムも出され、毎年NHK紅白歌合戦にも出場するという充実ぶりが窺える。


さらにこの時代に子供だった世代にとって忘れられないバラエティ番組『ハッチャキ!!マチャアキ』からもレコードが出されて、隠れたヒットとなっている。「ハッチャキ・ダンス/たたかえ!ハッチャキ・セブン」と「ハッチャキ・マーチ/お絵書き怪獣ゴミラ」は1972年のリリース。翌1973年にも後続番組『マチャアキのシャカリキ大放送!!』から「シャカリキ・ブルース/がんばれパパ」がリリースされた。いずれも森岡賢一郎の作曲・編曲だった。ちなみに日本テレビで放映されていたこの番組枠は『カックラキン大放送!!』へと受け継がれてゆく。本線の歌謡曲では、「さらば恋人」や「運がよければいいことあるさ」の筒美京平作品を皮切りに、鈴木邦彦、平尾昌晃、中村泰士らの作曲陣、作詞も阿久悠や山上路夫ら、錚々たるヒットメーカー達が名を連ねる中、1975年の「行きずりの男」は泉谷しげるの作詞・作曲・編曲による異色作。『マチャアキの森の石松』の主題歌であった。


1970年代の終り頃になると、リリースの間隔も少し落ち着いてくるが、大人気を博した『西遊記』の挿入歌「今では遅すぎる」(1978年)、『西遊記Ⅱ』のエンディング・テーマに使われた「SONGOKU」(1979年)、さらには『天皇の料理番』のエンディング・テーマ「遥かなるレディー・リー」(1980年)など、主演ドラマと連動した重要な作品が並ぶ。1981年のドラマ『キッド』の主題歌となった「メリーゴーラウンド」は寺尾聰の作曲で、地味ながらも佳曲。そして翌1982年にはドラマ『フジ三太郎』の主題歌として大瀧詠一「空飛ぶくじら」のカヴァーがリリースされた。ナイアガラー(=大瀧マニア)はともかく、一般的にはそれほど知られていないシングルかもしれない。その他、CD時代となってからも、浜口庫之助作品の「海の声 森の声」(1991年)、ドラマ『無理な恋愛』の主題歌として秋元康が作詞した「忘れもの」(2008年)、クレイジーケンバンドの横山剣とのコラボ「そんなこと言わないで」(2011年)など、興味深い作品は多い。芸能界の大御所となって久しい今、新たなヒット曲の誕生や、大エンターテイナーの堺正章でなければ出来ないような企画盤もまだまだ聴いてみたい。


≪著者略歴≫

鈴木啓之 (すずき・ひろゆき):アーカイヴァー。テレビ番組制作会社を経て、ライター&プロデュース業。主に昭和の音楽、テレビ、映画などについて執筆活動を手がける。著書に『東京レコード散歩』『王様のレコード』『昭和歌謡レコード大全』など。FMおだわら『ラジオ歌謡選抜』(毎週日曜23時~)に出演中。

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