2015年06月26日

時間ですよ 山下毅雄の音楽の世界

執筆者:不破了三

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毎月26日は「風呂の日」。各地の銭湯がお客さんを呼ぼうと様々なアイディアでキャンペーンやサービスを行っている日である。さて、銭湯と言えば思い出す… というより、忘れられないテレビドラマがある。1970年からTBSで放送が始まった『時間ですよ』シリーズだ。1973年までの間に、3つのシリーズ、計95話が放送されている。東京、五反田の銭湯「松の湯」を舞台にしたホームドラマの傑作であり、女将さんを演じた森光子を中心に、堺正章、悠木千帆(後の樹木希林)、松原智恵子らが脇を固めていた。演出は久世光彦が担当。平穏なホームドラマと見せかけて、時にアドリブコントの如きスリリングな展開を見せる『寺内貫太郎一家』(1974)や『ムー一族』(1978)で決定的となる虚実ないまぜの“久世演出”は、この『時間ですよ』が発祥と言えるだろう。


ところで、番組のオープニングで堺正章が「女将さーん!時間ですよー!」と大声で叫ぶのをきっかけに流れ始める音楽は、主題歌ではなく、インストゥルメンタルのテーマ曲であったことを覚えているだろうか。女性スキャットに乗って始まるラテン風のリズムと、金管楽器による柔らかメロディ。この曲は、その名も「時間ですよのテーマ」といい、歌っているのは女性3人のコーラスグループ:スリー・グレイセス。作曲家の名は山下毅雄という。


“ヤマタケ”の愛称で知られる山下毅雄は1930年生まれ。幼稚舎から一貫しての慶応ボーイで、学生時代からフルートを学び、大学の時には演劇部のために劇音楽を作り始めるが、作曲そのものはすべて独学で学んだというから驚きだ。卒業後はNHKラジオで作曲家としての活動を始め、以後、ラジオ、テレビ、CMを中心に職業作曲家として膨大な数の仕事をこなしていく。その評価が決定的となったのは、1961年の刑事ドラマ「七人の刑事」のテーマだろう。渋い低音の男性ハミングと寂しげな口笛で奏でられるこのテーマは、歌のないテレビドラマの主題曲としては異例の100万枚超の大ヒットとなっている。


アニメ『スーパージェッター』(1965)や『大岡越前』(1970)のような涼しげで颯爽としたテーマも書けば、『プレイガール』(1969~)やアニメ『ルパン三世(第1シリーズ)』(1971)のようなサイケなジャズロックもお手の物という作風の広さを誇る一方、すべての音楽に共通しているのは、「独学で作曲を学んだ」というエピソードに象徴されるような、お行儀のよい正規品からはどこか外れた、イイ意味での「マガイモノ」感だ。ジャズ的なアプローチを得意とする山下氏だが、それも高級なクラブで流れるジャズではなく、まして音大で習うようなものでもなく、場末のキャバレーの箱バンが演奏しているようなザックリとした… それでいて生命力とハプニング性に満ちているような音。この猥雑さこそが“ヤマタケサウンド”の真骨頂である。今にして思えば、この「時間ですよのテーマ」、どう贔屓目に見ても、ニッポン放送「オールナイトニッポン」のテーマとして有名な「ビタースウィート・サンバ」をモチーフにしているとしか思えないソックリ度なのだが、こういうザックリとし大らかさも、まさにヤマタケのヤマタケたるゆえんの一つだ。


さて、多くの人にとって『時間ですよ』が忘れられないのは、言うまでもなく、女性のヌードが惜しげもなくブラウン管に映し出された女湯のシーンなわけだが、現在のテレビでは考えられない、こういった刺激もまた、“久世演出”の妙だった。そこに重なる生命力とハプニング性に満ちた猥雑なヤマタケの音は、このドラマにとって、まさしく絶好のパートナーであったと言えないだろうか。


山下毅雄

時間ですよ

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