2018年07月09日
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2018年07月09日
1990年(平成2年)の本日7月9日、オリコンチャート1位のトップに立ったのは、B.B.クィーンズ「おどるポンポコリン」だ。
この曲が世に出て早くも28年。断続的にではあるが、テレビアニメ「ちびまる子ちゃん」のOP・EDテーマに使用され続け(カバーも含む)、永遠に大人になれないもののシンボル的存在にまで高められた感もある今、発売当初の狂騒にリアルタイムで接した者はもはや一人残らず「大人」である。だからこそ、当時を知る者として、冷静にこの曲が引き起こした現象について、ここで語らせていただきたいと思う。
まさか、当時は「もうひとつの日曜夕方の国民的アニメ」として長く継続するなんて予期していなかった「まる子」の放映開始は、90年1月7日。アニソンのメディアミックスが当たり前となっている現在では信じられないことだが、CD(及びカセット)シングルとして商品がリリースされたのは、その3ヶ月後、4月4日のことだ。その頃のオリコンチャートのラインナップを眺めてみると、当時の人気アイドルやバンドの新曲が入れ替わり立ち替り1位になるという状態で、メディアとしてのCDの躍進は始まったものの、ヒットパレード的な意味合いでは昭和末期からちょっと前に進んだのみという印象だった。
そんな生温いヒットパレード界を、まさかのアニソン界から現れた刺客、「おどるポンポコリン」が変革した。音楽パッケージ・セールスの傾向から考えると、J-pop史の最大の分岐点を「ポンポコリン以前・以後」としても過言ではない。
今では殆ど顧みられていないが、このヒットを加速した重要なファクターの一つに、同じフジテレビで4月12日から1クール放映されていたドラマ「恋のパラダイス」がある。トレンディ女優の代名詞的存在に躍り出ていた浅野ゆう子が演じる主役のキャラクターが、事ある度に「ピーヒャラピーヒャラ」と口ずさんでいたのだ。当然、局が同じというだけで大したメディアミックスの意図はなかったと思われるが、これが意外に反響を呼び「まる子」自体の人気にも跳ね返り、全世代に愛されるヒット曲の条件が出揃った。発売以来2ヶ月間チャート中盤でくすぶっていた「おどるポンポコリン」は、「恋のパラダイス」終了間際となる6月18日付で遂にベスト10に突入し、3週後に初のトップを獲得。以後、何度も他の曲に1位を譲りながらもしぶとさを発揮し続け、合計7週間1位を獲得した。最終的には164万枚というセールス記録を樹立。メガヒット林立時代となる90年代に於いては、この記録はむしろ地味な方となってしまったが、その前にこれを超える数字を叩き出した最後のシングルはというと、なんと渥美二郎「夢追い酒」(79年、182万枚)だったのだ。正に、風向きを変えた一曲。
80年代中期にTUBEをブレイクさせ、奇しくも6月25日付チャートで「太陽のKomachi Angel」を初めての1位に送り込みB'zの地位を確立させながらも、ヒットファクトリーとしてよりは趣味性を活かした音楽職人集団というイメージが強かったビーイングにとっても、この一曲は大きな分岐点となる。むしろその後の彼らについてここで語りすぎるのは、この曲のムードに反するのでやめておくとするが、正にこの一曲はビーイングの「趣味趣味音楽職人集団」ぶりを解りやすく凝縮したものだと思う。
謎のグループとされていたB.B.クィーンズだが、メガヒットが加速するに従ってメディア露出も増える事になる。その実体は、関西を中心に渋いブルース・ミュージシャンとして地道に活動を続けていた近藤房之助、85年にソロシンガーとしてデビューの後、ビーイング周辺を中心にスタジオ・ヴォーカリストとして修業を重ねていた坪倉唯子、そしてビーイング所縁の職人スタジオ・ミュージシャン集団だった。後にMi-Keとして独立することになるB.B.クィーンズ・シスターズの3人は、当初CDには参加していなかったが、メディア露出における華としてモデル・タレント人脈から抜擢された人達である。作詞は「まる子」原作者のさくらももこ自身。作曲はWHYを皮切りにソロ活動を経て、ビーイングの代名詞的ヒットメーカーへと躍り出ることになる織田哲郎だ。こんな花も嵐も熟知したいい大人たちが、童心に帰って面白がったプロジェクト、それがB.B.クィーンズだったのだ。今振り返ると、その徹底した趣味性とノベルティ性の合体は、さくら自身も大敬愛する大瀧詠一が持っていたそれを踏襲したものだと、堂々と述べてしまいたい。
のちに映画「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」(2014年)に使用されてリバイバルヒットした時、「この曲っておどるポンポコリンですよね?」と若者たちの間で話題になった、レッドボーン「カム・アンド・ゲット・ユア・ラヴ」(73年)からの影響に関してはあえて言及しないとして、この曲を聴いていて思わず膝を打ったのは、始まって9小節目で「いつだって〜」という歌詞が来た時である。手始めに、ディオン&ベルモンツ「恋のティーンエイジャー」(59年)を聴いてみてほしい。この曲のメロディーも「おどるポンポコリン」のAメロの原型となっている感がある。その9小節目の歌詞は「Each night I ask〜」なのだ。ほら、語感が似ている。モロパクではないけど、確信犯的にそれを匂わせてマニアをニヤリとさせるテクニック。まさにナイアガラ直系ではないか。
この曲がテーマ曲として使われていない期間にも、同じくさくらがリスペクトする西城秀樹を起用して、同じように記号的なフレーズを散りばめた「走れ正直者」があったり、小山田圭吾プロデュースによるサイコなガレージパンク曲「じゃがバタコーンさん」をManaKanaが歌ったり、とどめには大瀧詠一その人を起用しての渡辺満里奈「うれしい予感」と植木等「針切じいさんのロケン・ロール」など、数々の遊び心を見せてくれた「まる子」の音楽。それらについて語る方が、ずっとうきうきする。バブリーなメガヒット時代となった1990年代を省みるよりも。「おどるポンポコリン」は、まさにその両方に火をつけた罪な歌だった。まだまだ語りたいことはあるけど、今回はこの辺で。
B.B.クィーンズ「おどるポンポコリン」ジャケット撮影協力:鈴木啓之
≪著者略歴≫
丸芽志悟 (まるめ・しご) : 不毛な青春時代〜レコード会社勤務を経て、ネットを拠点とする「好き者」として音楽啓蒙活動を開始。『アングラ・カーニバル』『60sビート・ガールズ・コレクション』(共にテイチク)等再発CDの共同監修、ライヴ及びDJイベントの主催をFine Vacation Company名義で手がける。近年は即興演奏を軸とした自由形態バンドRacco-1000を率い活動、フルートなどを担当。 2017年5月に3タイトルが発売された初監修コンピレーションアルバム『コロムビア・ガールズ伝説』の続編として、新たに2タイトルが10月に発売された。
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