2019年01月25日

44年前の本日、小坂忠の名盤『ほうろう(HORO)』がリリース

執筆者:北中正和

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2018年11月26日に東京・有楽町の国際フォーラムで「小坂忠 ほうろう」コンサートが行なわれた。武部聡志が選ぶ「100年後も聴き続けてほしい名アルバム」のシリーズの2回目だ。ちなみに1回目はユーミンの『ひこうき雲』だった。


出演はAsiah、荒井由実、尾崎亜美、さかいゆう、高橋幸宏、田島貴男(ORIGINAL LOVE)、 Char、 BEGIN、槇原敬之、矢野顕子、後藤次利(fromフォージョーハーフ)、駒沢裕城(fromフォージョーハーフ)、吉田美奈子、鈴木茂(from ティン・パン・アレー)、林立夫(from ティン・パン・アレー)、松任谷正隆(from ティン・パン・アレー)、小原礼、武部聡志、小倉博和、根岸孝旨、屋敷豪太、細野晴臣という豪華メンバー。総合演出は松任谷正隆。


コンサートは小坂忠ゆかりのアーティストが彼のレパートリーをとりあげる部分と、ゲストやフォージョーハーフやティン・パン・アレーのメンバーをまじえて小坂忠がうたう部分で構成され、若いアーティストによる解釈と往年のメンバーのいまが楽しく交差していた。彼の歌声も2年前の大病の後とは思えない力強さだった。


『ほうろう(HORO)』(1975年1月25日)は発表当時関係者に高く評価されたが、ベストセラーになったわけではなかった。いまはこのアルバムのソウル/R&B的な要素に注目する若者が多いが、ソウル/R&B的な音楽の認知度の低かった当時は、ロック、ポップの最先端として紹介されていた。

コンサートに寄せたコメントで小坂忠はこのアルバムは「初めてボーカリストとしてのスタイルを見つけられた作品で、シンガーとしての音楽活動の出発点になりました」と書いている。


その前のフォージョーハーフ時代から彼の歌のスタイルはすでに出来上がっていたが、彼にとっては手探りの時期という意識が強かったのだろう。たしかに、カントリー・ロック色の強いサウンドと落ち着いた歌声の曲が多かったフォージョーハーフ時代にくらべると、『ほうろう』ではサウンドも歌もポップ、ロック、ソウルに広がり、さらに大きく開花した印象を受ける。


『ほうろう』の路線を決めたのはプロデューサーの細野晴臣で、小坂忠とはエイプリル・フール時代からつきあいがあり、おたがい音楽的嗜好を熟知したうえの判断だった。細野の率いたティン・パン・アレーがソウル/R&B/ファンク/フュージョン的な音楽に傾倒していた時期でもある。


曲は「しらけちまうぜ」をはじめとするオリジナルの新曲だけでなく、フォージョーハーフ時代の「機関車」の再演、はっぴいえんどの「氷雨月のスケッチ」「ふうらい坊」なども入っているが、もともとこのアルバムのための曲であるかのように収まっているのは、演奏と歌声の力によるものだろう。


「しらけちまうぜ」は後に近藤真彦、小沢健二、東京スカパラダイスオーケストラ、クレイジー・ケン・バンドなどに広くカバーされ、ポップのスタンダードになった。発表当時にヒットした曲でなくとも、いい曲は古くならず、時さえ来れば評価されることの好例だ。「機関車」もそんな曲のひとつで、彼自身何度もレコーディングし、ポップス系の人だけでなく、田端義夫のような意外な人もカバーしている。


フォージョーハーフ時代のこの曲について彼は、かつて学生運動やアートで自由な表現を求めていた若者たちが、就職して型にはまっていくのを見て作ったという意味のことを語っていた。しかし『ほうろう』でのこの曲は、より普遍的に、生き方を問いかける歌に聴こえる。


いま振り返ってみれば、演奏も歌声も新しい次元に突入したこのアルバムは、社会が大きなスピードで変わろうとしていた70年代中期に、生まれるべくして生まれた作品だったという気がする。


なお、このアルバムはヴォーカルだけを新たにレコーディングしたブルー・スペック・ヴァージョンも2010年に発売されている。


小坂忠『ほうろう』『HORO2010(Blu-spec CD)』写真提供:ソニー・ミュージックダイレクト

ソニーミュージック小坂忠公式サイトはこちら>


≪著者略歴≫

北中正和(きたなか・まさかず):音楽評論家。東京音楽大学講師。「ニューミュージック・マガジン」の編集者を経て、世界各地のポピュラー音楽の紹介、評論活動を行っている。著書に『増補・にほんのうた』『Jポップを創ったアルバム』『毎日ワールド・ミュージック』『ロック史』など。

ほうろう 40th Anniversary Package 小坂 忠 (アーティスト) 形式: CD

HORO2010 CD 小坂忠 形式: CD

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