2015年08月11日

CMソングに革新をもたらしたメロディー・メーカー:小林亜星

執筆者:不破了三

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本日、8月11日は作曲家:小林亜星氏の誕生日。作曲家であると同時に俳優、タレント、歌手等、様々な顔を持った多才な人物であることは、広く世に知られているとおりである。


慶應義塾高等学校から慶應義塾大学に進み、ジャズバンドでビブラフォンの演奏に熱中するうちに作曲家を志すようになったという小林は、大学卒業後、服部正に作曲を師事。1961年のレナウンCMソング「ワンサカ娘」の大ヒットにより一躍脚光を浴びて以降、アニメソング、ドラマ主題歌、劇伴音楽から歌謡曲、クラシックまでを手掛ける敏腕作曲家として、引く手あまたの存在となっていく。特に、誰もが簡単に覚えられ、無意識に口ずさむことのできるメロディを紡ぎだす天才として、彼はCMソングの世界で数多くの名曲を創造してきた。


低音の男声スキャットのみで歌われるサントリー・オールド「人間みな兄弟」(1968)、趣きのある故郷の風景の中でのふれあいを描いた「♪日生のおばちゃん 自転車で…」の一節で知られる日本生命「もくせいの花」(1972)、街ゆく女性への突撃インタビュー風の映像に乗せたムードコーラス調のエメロン(現:ライオン)シャンプー「ふりむかないで」(1972)などは、テレビの黎明期にありがちだった、急かすように商品名を連呼する音楽ではなく、大きな流れを持った一つの「歌」として成立する音楽として、CMソングという表現に大きな革新をもたらした。歌謡曲との同時ヒットを狙ったタイアップ型のCMソングが主流となる70年代後半以前に、既に物語性を持った大きなメロディで映像の世界観を支え、引いては一つの商品ではなく、企業そのもののブランドイメージを音楽面から組み上げていくという手法を成功させていたわけである。同じく小林の同時期の作品である、「積水ハウスの歌」(1970)や、日立グループCMソング「日立の樹(この木なんの木)」(1973)などが、誕生から数十年を経た今もなお、超ロングランCMソングとしてテレビから流れ続け、企業イメージを支え続けているのも肯けることである。


また逆に、小林の手掛けたCMソングの部分的な一節(特に最後の一節)が、最も短い広告音響表現の先駆けとして既に機能していたことにも注目したい。


80年代後半以降、テレビ画面を注視していない「ながら視聴者」にも、何のCMなのかを認知させるため、「サウンドロゴ」と呼ばれる極々短いフレーズの音楽をCMに仕込んでいく手法が大勢となっていくが、下記のような小林の作品に、既にそうした機能の片鱗を感じないだろうか……?

・大関酒造「酒は大関 心意気」(1970)

・ライオン ブルーダイヤ「金・銀・パール プレゼント」(1969)

・カメラのさくらや「安さ爆発 カメラのさくらや」(1978)

・三共「新三共胃腸薬 顆粒」(1982)     ……等々。

この時代にテレビが好きだった者であれば、文字面を見るだけで即座にメロディが浮かんでくるはずである。また、サウンドロゴが一般的になった後も、「あなたとコンビにファミリーマート」(1989)、「くらし安心クラシアン」(1999)などのロングヒットを飛ばしていることも見逃してはならない。全体と部分、マクロとミクロ…… その両面において、小林亜星の創りだすCMソングは、常に次の時代に向けてのアイディアを提示してきたのである。


名曲を数多く生み出してきたソングライターを「稀代のメロディー・メーカー」と称することがあるが、CMソングという凝縮された音楽世界で、シンプルで分かりやすく、それでいて印象深く心に残る作品を創り続けてきた彼ほど、真にその名にふさわしいクリエイターはいないのではないだろうか。

(文中敬称略)

小林亜星

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