2015年11月30日

「第二十三回 ポプコンつま恋本選会」でグランプリを獲得し、1982年の年間チャート1位に輝いた、あみん「待つわ」。その楽曲性と当時の岡村孝子

執筆者:小貫信昭

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岡村孝子と加藤晴子のデュオ、あみんがデビュ-したのは1982年の7月。遡ること2か月前の「第二十三回 ポプコンつま恋本選会」で、見事グランプリを獲得したのがキッカケだった。曲は「待つわ」。このタイトルとは逆に、あっという間にチャ-トを駆け上り、この年のオリコンの年間チャ-トの第1位に輝き、ミリオン・セ-ルスを達成したのだった。当時、二人は現役の女子大生であり、マスコミからはそんな注目のされ方もした。ちなみに深夜番組『オ-ルナイト・フジ』がスタ-トし、世に“女子大生ブ-ム”が巻き起こるのは翌年のこと。


グランプリ獲得は彼女達の生活を一変する。スタッフに手を引かれ、キャンペ-ンで全国を飛び回る日々が始まるのだ。そして取材やテレビ出演…。当時の歌番組の映像は、現在YouTubeでも手軽に観られる。そこにはまさに、今し方まで学内のキャンパスを歩いていた清楚な二人の姿がある。しかしひとつ、気づくことも。左右に軽くステップを踏みながらのパフォ-マンスは、どこか所在なさげなのだ。一方でハンドマイクを握る手や歌う表情には確かな強さがある。このアンビバレンスが示すものはなにか? まず“私達はアイドル歌手のようなことがしたいのではない”という仄かな反抗が伝わる。そして“伝えたいのはメロディとハ-モニ-”という、この確固たる意志こそが、マイクを握る手の強さや顔の表情を生んだのではと思う。


「待つわ」は非常によくできた楽曲である。特に構成が。Aメロは言葉が詰め込まれた感じで、メロディの動きもあまりない。でも歌詞では自分が現在置かれている恋愛状況が説明されていく。好きな彼氏との関係は一進一退。ちなみに現在の形勢はかなり不利…。“生きるのがつらい”という言葉が軽々しく遣われるのもむしろ青春ならでは。でもこの部分、メロディは動かさないからこそ、ハ-モニ-の工夫が印象深く伝わる仕掛けになっている。


雰囲気が一変するのがBメロの“♪青く広いこの空”からであり、ふ-っと歌詞もメロディも“遠い目”になる。それまでの“密”な雰囲気から一気に風通しが良くなる。このパ-トが大好きという人はいまも大勢いると思うが、実に印象的だ。歌詞の中の、この空は“誰のものでもないわ”という達観もいい。この恋に引き続きエントリ-し続けるという遠回しの宣言でもある。主人公の気持ちも徐々にアップし、サビへと駆け上がる。“まつわぁ~↗ まつわぁ~↘”の単なる繰り返しじゃない追っかけのコ-ラスも非常に考えられたもので、この部分にはコブシとまでは言わないけど演歌的情念がほんのちょこっとだけ振り掛けられているので余計に胸を打つ。


岡村孝子はそもそも、高校時代から作詞・作曲マニアの女の子だった。さだまさしからの影響だが、同級生がバンドを組み人気ア-ティストの曲を演習していたのを尻目に、「そっちはコピ-でしょ。わたしはオリジナルなのよ」と、ピアノの上に乗っけたラジカセを駆使してのデモ作りに精を出していたという。もともと彼女は音大志望であり、しかしいつしか譜面を前にクラシックを演奏することより頭の中にあるイメ-ジを曲にすることへ熱中するのだった。その成果のひとつが「待つわ」だ。


あみんの相方の加藤晴子とは大学入学とともに出会う。二人はすぐ仲良しになって、ハ-モニ-の練習なども楽しみの延長として日常的にやっていたのだと思う。岡村がなにか思いつけば、即、実際に二人で声を合わせ、試せたんだと推測される。それがあって、この「待つわ」の単に三度でお座なりにハモるだけではない奥深さも生まれたのだろう。しかし後年、ソロになった岡村に取材で会って、当時のことを訊ねたら、「大学生活との両立とかって質問はやたら受けたけど、“このハモリはどんなアイデアから?”みたいな音楽的なことは誰も訊いてくれなかった」とボヤいてたけど…。


あみんはロ-マ字表記では“Aming”。つまり継続していく意思を名前に込めた二人だったが、結局その活動は1年4か月ほどでその活動を終了する。なお今回、名曲「待つわ」がハイレゾの環境でも聴けるようになった。萩田光雄氏による楽曲アレンジの妙も、より細部までクリア-に楽しめることだろう。


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