2017年08月30日

1982年8月30日、女性デュオ・あみん「待つわ」がオリコン・チャートの1位を獲得

執筆者:馬飼野元宏

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1982年8月30日、女性デュオ・あみんの「待つわ」がオリコン・チャートの1位を獲得した。


あみんは、岡村孝子と加藤晴子の2人組現役女子大生デュオ。第23回ヤマハポピュラーソングコンテストでグランプリを獲得、同曲がデビュー曲である。この楽曲の魅力は何といっても、2人の清潔感溢れるハーモニーにある。メロディーを岡村が歌い、加藤が三度でシンプルにハモるスタイルだが、サビにかかると追っかけの形で、2人がユニゾンで歌うパートが現れ、まるで一瞬2人が溶け合うように美しい旋律を追っていく。このスタイルがあみんの魅力といっていい。歌詞の通りではないが、2人の声の「行ったり来たり繰り返し」が清廉な印象を聴くものに与えるのだろう。


1年4か月の活動期間を経て、加藤は引退、その後ソロになった岡村は、代表曲である「待つわ」を封印、別のシンガーと歌うこともなかった。実際、加藤の引退に際し、岡村には別の女性ヴォーカルとデュオを組まないかという話も提案されたそうだが、彼女は加藤以外と組むことはまったく考えていなかったそうである。


このエピソードからもわかる通り、デュオ、ことにハーモニーを主体にした女性2人組の場合、別のヴォーカリストと組むことが難しいのである。日本のポップス史を振り返っても、女性デュオとはタイプが異なっても、ハーモニーがあって初めてグループとしての個性が際立つのだ。


日本の女性デュオ、最初の成功例といえばザ・ピーナッツを置いてほかにない。伊藤エミとユミの双子姉妹ならではの、2人が完全に同一の声質を持ったハーモニーを披露していて、音程もリズムもノリも完璧に一致している。ザ・ピーナッツは「恋のバカンス」のようにユニゾンとハーモニーが混在した曲が多く、多くは姉のユミが高域を、妹のエミが低域を歌うのだが、時にどちらが主旋律でどちらが副旋律を歌っているのか区別がつかなくなるところも、同質の声を持つ者同士ならでは。左右対称の振り付けも、もちろん魅力だった。


70年代には折からのフォーク・ブームを受けて、女性のフォーク・デュオが数多く登場してくる。ハワイ出身のベッツィとアイダホ州出身のクリスの外国人2人組によるベッツィ&クリスが69年10月1日「白い色は恋人の色」でデビュー・ヒットを飛ばす。リード・ヴォーカルはハイトーンが持ち味のベッツィで、アコースティック・ギターをつま弾きながらハーモニーをつけているのがクリス。音域もかなり離れており、声質も違う2人の声をハモらせると、ザ・ピーナッツとはまた違った、異質の声が重なるスリルが生まれる。2人のたどたどしい日本語が、加藤和彦のソフィストケートされたメロディーに乗ると、かえって透明感溢れるハーモニーを際立たせる効果を生んでいるのだ。2人が「赤とんぼ」「浜千鳥」「七つの子」などの童謡を歌ったアルバム『日本の詩』では、まさしく彼女たちの唯一無二の流麗なハーモニーを聞くことができる。


RCAレコードのディレクター、ロビー和田が、ベッツィ&クリスの日本版を作ろうと、関西のフォーク・シーンでアマチュアのライブ活動を行っていた女性2人組をデビューさせたのがシモンズ。西岡たかし作曲の「恋人もいないのに」で71年にデビューするが、こちらもおもに主旋律を歌う田中ユミのクリスタル・ヴォイスと、副旋律を担当する玉井タエの低めのスモーキーな声が絡み合うところが魅力で、そういった点もベッツィ&クリスの後継にふさわしい。玉井タエの低域にはやや暗さがあり、アルバム内のソロ曲「取り消してください」などでその魅力が発揮されている。こういったフォーク系では伊豆丸礼子、幸子の姉妹デュオ、ウィッシュの「御案内」も忘れ難い名曲だ。


70年代後半の歌謡界を席巻したピンク・レディーもまた独創的なハモりを特徴としていた。ミーの器楽的で滑らかな高音域と、ケイのハスキーで艶のある低音域は、相当にレンジが異なっており、声質の圧倒的な違いもあって、普通であればハーモニーを取るデュオにはなりづらい声の組み合わせであるはずだ。だが、「ペッパー警部」の歌い出しのパワフルな高揚感は、この2人の声が合わさった時にしか出せないオーラなのである。Bメロ後半のハモりも、エロティックに聞こえてくるのはこの2人の声が織りなす魅力なのだ。この曲はケイが主旋律を取っているが、一度、年末の賞レース番組で、新人賞を受賞し、ケイが感極まってこのパートを歌えなくなりミーの超絶ハイトーンだけがお茶の間に響いたことがあったと記憶している。ミーの副旋律が物凄いパワーを持っていることと、まったく異質の声が重なって“ピンク・レディーの声“になるのだと実感した一瞬だった。曲によって主旋律がミーになったりケイになったりするのも、このデュオの特徴である。「カルメン’77」「乾杯お嬢さん」なども超絶のハーモニーが楽しめるが、これだけ声質が違うとユニゾンでも十分にスリリングだ。


ピンク・レディー・フォロワーとしてデビューした大谷親江(ノン)、山中奈奈(ナナ)の2人組、キャッツアイも隠れた実力派。エッチな衣装と下世話な振り付けばかりが語られるが、デビュー曲「アバンチュール」、続く「めっきり冷たくなりました」でも似た声質できれいなハーモニーを重ねている。


ほかにも、演歌でありながら双子姉妹ゆえの相性のいいハーモニーをきかせる祐子と弥生、さらにはWink、Kiroro、花*花など、数多い女性デュオのハーモニーはそれぞれに個性的である。そしてどちらかが結婚、引退となり解散してしまうのも、女性デュオらしい引き際といえよう。それぞれのデュオが持つ声質の微妙な匙加減こそが、その個性となっているのだから、他の人では同じ歌にはならないのである。いつか必ず終わりがある、その儚さもまた女性デュオの魅力と言えるだろう。

「待つわ」「恋のバカンス」「白い色は恋人の色」「ペッパー警部」「アバンチュール」写真提供:鈴木啓之

「恋人もいないのに」写真提供:ソニー・ミュージックダイレクト

ソニーミュージックシモンズ公式サイトはこちら>


≪著者略歴≫

馬飼野元宏(まかいの・もとひろ):音楽ライター。月刊誌「映画秘宝」編集部に所属。主な守備範囲は歌謡曲と70~80年代邦楽全般。監修書に『日本のフォーク完全読本』、『昭和歌謡ポップス・アルバム・ガイド1959-1979』ほか共著多数。

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