2015年10月21日
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2015年10月21日
34年前の本日は、中島みゆき「悪女」が発売された日である。
そもそも中島みゆきは鋭敏な知覚の持ち主で、しかも感じ取ったことを言葉に変換する能力にも長けている。彼女が書くテ-マはごくありふれた市井の物語なのだが、作品として形になると、とびきり詩的に輝き始めるのはそのためだ。でも“詩人”だからいい歌が書けるのかというと、一概にそうとは言えない。かつて「詩」と「詞」の違いについてご本人に訊ねたことがあるのだが、「詩」を書いたとしても、それを歌詞に転用することはないそうだ。この話を踏まえて思うのは、彼女は常にコトバから発想してそうでいて、曲が先のものも多いのでは、ということ。例えば「わかれうた」だとしたら、当初から軽快なツンタッツッタッという二拍子の曲調が頭にあり、これなら歌全体として人間の悲喜劇を描けるぞ、と、歌詞のほうでは“置き去りにされた側”に徹底できたのではなかろうか。
さて、そんな中島みゆきにとって、「わかれうた」以来のオリコン・チャ-ト第1位となったのが「悪女」である。81年10月の今日、リリ-スされた。ただ、曲のタイトルこそ「悪女」だが、実際に男を手玉に取りのし上がる、そんな女性が登場するわけではない。あくまで願望を描いた作品であり、でもそれは、誰の胸にもあるものだろうから、歌の題材として選んだのだろう。
僕がこの歌を初めて聴いたのは、深夜のAMラジオだった。ピアノとアコ-スティック・ギタ-を絶妙に配した船山基紀のアレンジが、とても新鮮だったのを憶えている。独特のエコ-を伴ったそのサウンドは、まさに降り注いでくるかのよう…。そこにいきなり聞こえてきたのは、“マリコの部屋へ…”という、インパクトのある言葉だ。柔らかな音像と具体性あるこの言葉とのコントラストが実に印象深く、すぐこの歌に引き込まれた。
さきほどのマリコ、さらに帰れるあての「あなた」と、主人公以外に二人の人物の存在が暗示される。しかしあいにく両者とも連絡が取れず、朝まで独り、街を所在なげに彷徨うこととなるのだ。ちなみに友達のマリコとの間には、女同士ならではの見栄も介在する。ただ、2番の歌詞の冒頭の、「女のつけぬ」コロンを買ってうなじにつけて、あたりまでくると、もはや主人公は、“演じる”ことに快楽すら感じているのではと思えてしまう。確か以前、この歌のひとつのテ-マとして「孤独に対する憧れ」もあると、ご本人も発言していた記憶がある。
ドラマチックな展開を見せるのはサビだ。ここで月の存在が、その満ち欠けが、人体に与える影響までもが取り沙汰される。帰れるあての「あなた」の目の中にもはや自分が居ないことを察知した主人公は、自分に愛想を尽かすよう仕向けるのだが月が邪魔する。「わかれうた」冒頭の、道に倒れてだれかの名を呼び続けた経験のある人は稀だろうが、この歌に出てくる“裸足で夜明けの 電車で泣いてから”(歌詞からの引用)という、この経験を実際にしたことがある人も稀だろう。そして“ほろり”と“こぼれる”のは「行かないで」。この言葉、偶然だろうがジャック・ブレルのシャンソンの名曲タイトルと同じである。
さらにもうひとつ。これは彼女から伺った話なのだけど、当時(80年前後)のコンサ-トのお客さんの反応として、みんなでスタンディングで手拍子するというのが盛り上がりの典型的な光景だったそうだが、それまでのみゆき作品には、手拍子に相応しいものが無かったそうなのだ。でも「悪女」で、自然と手拍子が沸き起こるようになったという。手拍子しやすい曲とは思えないけど、“♪あ~く~じょ~にな~るなら”とかっていうあたりは、確かにシャンシャンシャンとやれそうな気がする。
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