2015年12月22日
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2015年12月22日
1975年にレコードとテープの売上順位の1位になったのは、21歳の女性シンガー・ソングライターだった。その人は当時まだ荒井由実と名乗っていたユーミン、後の松任谷由実である。
その年には彼女のシングル「ルージュの伝言」と「あの日にかえりたい」、アルバムの『コバルト・アワー』がヒットし、同じ時期にバンバンに提供した曲「『いちご白書』をもう一度」も大ヒットしていた。1位はその当然の結果だった。
それはちょうど、フォーク、ロック系のシンガー・ソングライターやグループのヒット曲が相次ぎ、吉田拓郎、井上陽水らのレコード会社フォー・ライフが生まれ、それらの音楽に対してニューミュージックという言葉が使われはじめた年のことだった。
ユーミンの「あの日にかえりたい」は、その時期を象徴するヒット曲のひとつだ。タイトルだけ見ると、後ろ向きの懐旧的な歌のようにも思えるが、歌詞の中味はそうではなかった。ティン・パン・アレーのメンバーらが演奏するボサノヴァ調の軽快なリズムと、山本潤子の透明感のあるコーラスに導かれてはじまるこの曲の歌詞は、おおよそつぎのようなものだ。
歌のヒロインにはかつて愛する人がいた。しかし泣きながら写真をちぎったという描写があるので、二人は何らかの事情で別れた。
ヒロインの現在についてはあまり書かれていないが、彼女にはつきあっている人がいるらしい。しかし今の相手に対する感情は、かつての恋人と一緒に、悩みなく、光る風の中を駆け抜けていたあのころとはちがう。だからヒロインの葛藤は消えない。
過去のある時点に戻って、もしあのとき別の選択をしていれば、いまの自分はどうなっていただろう。まったくちがう人生を歩んでいただろうか。それともやっぱり今のような自分だっただろうか……過去に対する「たら」「れば」の仮定は意味がないとわかっていても、人はそんな想像にかられる。そうしないでいられるのは、今よほど満ち足りている恵まれた人だけだ。
この歌は、そんなヒロインがあのころの自分にかえろうと決断したところで終わる。青春の後ろ姿というフレーズが、過去へのあこがれという抽象的な思いを見事に映像的に結晶させている。
自分があの日にかえったとしても、相手がどうかはわからないので、かつてのような幸せな日々が戻ってくるとはかぎらない。しかし彼女にとっては今の自分が変わる事が重要なのだ。自立しようとする女性の姿と思いこみに生きがちな女性の姿が重なり合うところが、この歌の新しさだった。
この曲がヒットした70年代は女性の権利拡大を求める動きがさかんになった時代でもあった。60年代末から70年代初頭にかけてはウーマンリブの運動がはじまり、国連も1975年を国際婦人年としてその運動を後押ししていた。
そんな世相は70年代中期から女性シンガー・ソングライターの活躍が増えてきたこととどこかでリンクしていただろう。そうした世相に影響された気分は、ポップス系のシンガー・ソングライターにとどまらず、都はるみの「北の宿から」について、作詞者の阿久悠が「強い女を描いたつもり」と述べたように、演歌の制作陣にまで及んでいた。
実際に女性の権利が拡大されるまでには時間がかかり、そのプロセスは今もなお続いているのだが。
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