2017年02月02日
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2017年02月02日
60年代の後半に、ザ・ジャックスというグループに集まった才能を、どう表現すればいいのだろうか。
ソングライターとしてヴォーカリストとして、それまでの日本にはいなかった強烈な自我を発散した早川義夫、その早川の声にまとわりつくようなベースを弾いた谷野ひとし、孤高という響きが似つかわしい存在感のあるギタリストであった水橋春夫、そして、マルチ・ミュージシャンでバンドを抜けた後は、演奏家/アレンジャーとして多彩な才能を発揮していった木田高介。これらの個性が複雑に絡まり合い、ザ・ジャックスを形成していたのだ。
水橋は、高校時代の友人であった木田高介からザ・ジャックス参加の誘いを受けた時、自分のギターを持っておらず、ガールフレンドから借りた安物のギターを携え、練習に向かったという。これも何とも水橋春夫らしいエピソードだ。
68年にシングル「からっぽの世界」でデビュー。東芝音楽工業(現在のEMI Records Japan)と契約し、アルバム『ジャックスの世界』を発表。評価が高まりつつあるさなかに、ギターの水橋春夫はグループを脱退してしまう。音楽活動を辞めた水橋は、レコード会社のディレクターに変身。アニメやアイドル、歌謡曲などあらゆるジャンルを手掛けたが、その中から横浜銀蝿が大ヒットを飛ばすようになる。
ポリスター時代には、鈴木早智子と相田翔子の二人組 Wink をディレクションし、人気グループに育てていった。彼女たちのデビュー曲は、70年代の半ば頃にヒットしたルベッツの「シュガー・ベイビー・ラヴ」に日本語の歌詞を乗せたもの。エレクトロニックなビートを加え、クールに歌わせたのがヒットの要因だった。デビュー曲にして、オリコン・チャートの20位を記録した。
余談ながら、Wink の9枚目のオリジナル・アルバム『Nocturne 〜夜想曲〜』の中には、ザ・ジャックスの「時計をとめて」のカヴァーが収められている。このあたりは水橋の遊び心であったのだろうか。
この水橋春夫が、突如ミュージシャンに復帰。2015年に水橋春夫グループ名義でアルバム『考える人』を発表した。なんと! 48年ぶりのカムバック。これだけに終わらず、2016年にはセカンド・アルバム『笑える才能』をリリースした。これは、酔狂でも道楽でもなく、本気の証だ。
豪放なロックン・ロールあり、グループサウンズをモチーフにした曲あり、泣けるバラードあり。そのどれもが不器用ながらも、自由な佇まいをみせている。言葉が執拗に心に絡みついてくるのは、ザ・ジャックスからの伝統。日本語の歌を知り尽くした男だけある。
この水橋春夫が2月2日に誕生日を迎える。1949年生まれだから、68才になるのだが、この歳になってロックが歌えることを、とても羨ましく、そして頼もしく思えるのだ。
≪著者略歴≫
小川真一(おがわ・しんいち):音楽評論家。ミュージック・ペンクラブ・ジャパン会員。ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、ギター・マガジン、アコースティック・ギター・マガジンなどの音楽専門誌に寄稿。『THE FINAL TAPES はちみつぱいLIVE BOX 1972-1974』、『三浦光紀の仕事』など CDのライナーノーツ、監修、共著など多数あり。
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