2017年11月29日

11月29日は大俳優であり大歌手である勝新太郎の誕生日

執筆者:小川真一

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勝新太郎には、どんなイメージを持っているだろうか。

酒を呑みにいくと、ハシゴをする度に人が増え、最後の店に辿り着いていた時には100人近くの大人数になっていたとか。その飲み代を全部払うのが勝新太郎。こんな逸話もあるが、どこまで本当か判らないが、実にありそうな話ではないだろうか。他にも、退院の記者会見で、「医者に煙草を止められた」と話しながらも、美味しそうに一服火をつけてみたり、幾多のエピソードを生み落とした。自らが伝説を作り、その伝説の中で生きたのが勝新太郎であった。これも、勝新太郎が勝新太郎らしさを演じるという、彼流の遊びではなかったかと思う。


勝新太郎(本名・奥村利夫)は長唄三味線方の杵屋勝東治の次男として生まれ、二十歳という若さで名跡である二代目杵屋勝丸を襲名している。いくら世襲が色濃く残っている世界とはいえ、若くして名跡を継ぐのは、本人の才能と周りの納得がなければ不可能。彼の根底に演奏者としての顔があるのを覚えておいていただきたい。


坂口安吾などにもその腕前を認められ、若くして伝統芸術家として一家を成し、その以後、映画俳優に転身し、大映映画「花の白虎隊」で銀幕デビューする。大映時代は市川雷蔵のライバルであった。この二人が共演した映画があり、61年の公開の和製ミュージカル「花くらべ狸道中」では、雷蔵と勝新がデュエットをするとい夢のような場面が登場してくる。

がしかし、白塗りの二枚目役では市川雷蔵とは差を付けられるばかりと、悪役を演じ路線の変更を試みた。その当たり役が八尾の朝吉を演じた悪名シリーズ。田宮二郎が演じるモートルの貞との対比も素晴らしく、この悪名シリーズは大ヒットとなった。この映画「悪名」の時に吹き込んだのが、68年発売の「悪名(河内音頭)」だ。冒頭の「わたしが河内音頭を聞かせにきました。裸で歌といたらよろしいおまんの」の台詞がシビれるほどカッコいい。ここで勝新太郎は<歌うスター>という座も射止めたことになる。


そして「座頭市」シリーズでさらにその人気を高めていったのはご存じの通り。演出にも興味を持ち、74年からテレビで始まった「座頭市物語」や「新・座頭市」では、自らも監督をつとめている。大映時代からトリフォーやゴダールなどのヌーヴェル・ヴァーグの動きに関心をもち、ルイ・マル監督の「死刑台のエレベーター」を観て手持ちカメラの駆動性や、マイルス・デイヴィスを起用した音楽の斬新さにも着目したという。


その勝新太郎の映像への拘りが最も発揮されたのが、80年にスタートした、カルトなドラマ「警視-K」だ。ドキュメンタリーのような即興性の強い映像で、酔っ払ってスタジオに入ってきた役者をそのまま酔っぱらいのまま撮ったり、随所に勝ならではの独創性が爆走している。なおこのドラマの主題歌は山下達郎が歌う「MY SUGAR BABE」、80年12月30日に放映された最終話のタイトルが「マイ・シュガー・ベイブ」だったというオチまでついている。


レコードも多く残されている。70年に発表された『勝新太郎夜を歌う』には、海外のスタンダード曲が数多く収められている。どれも余裕で勝流に仕立ててあるが、鼻唄のように流しながらも歌は滅法うまい。82年の『THE MAN NEVER GIVE UP』は、宇崎竜童と組んだ作品集で、勝新太郎版「マイ・ウェイ」ともいえる「愛めぐりあい」など、名曲が目白押し。他にも、三味線をかかえ小粋に唄った『遊びばなし うたとはなしと三味線と』などもリリースされている。


映画俳優としては大成功をおさめたが、自身が設立した勝プロダクションの倒産、「座頭市」撮影中の事故、ホノルル国際空港で薬物所持で逮捕されるなど、晩年は多難続きだった。その借金の多くを、歌のステージで返したとも言われているが、舞台に立って歌っている時が一番楽しそうにみえた。この大俳優であり大歌手である勝新太郎が生まれたのが、本日11月29日であるのだ。


≪著者略歴≫

小川真一(おがわ・しんいち):音楽評論家。ミュージック・ペンクラブ・ジャパン会員。ミュージック・マガジン、レコード・コレクターズ、ギター・マガジン、アコースティック・ギター・マガジンなどの音楽専門誌に寄稿。『THE FINAL TAPES はちみつぱいLIVE BOX 1972-1974』、『三浦光紀の仕事』など CDのライナーノーツ、監修、共著など多数あり。

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