2016年05月03日

34年前の今日、薬師丸ひろ子のアルバム『青春のメモワール』がチャート1位を獲得

執筆者:馬飼野元宏

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1982年5月3日、薬師丸ひろ子のアルバム『青春のメモワール』がオリコン・チャートで1位を獲得した。


日本コロムビアから発売された『青春のメモワール』は、通常のアルバムとはつくりが異なっている。内容はほぼ薬師丸によるナレーションと、出演映画のシーンで構成され、デビュー作となった映画『野性の証明』や81年の主演映画『ねらわれた学園』のいくつかのシーンのほか、『ねらわれた学園』の主題歌「守ってあげたい」のインスト、また新進コーラス・グループのメロディ・メーカーが歌う同盤のテーマ曲「17歳の軌跡」などが収録されている。オリジナル・サウンド・トラックともちょっと違う、ナレーションで綴る彼女のメモリアル的なアルバムなのだ。


こういったアルバムが発売されること自体も異色だが、またそれがチャートの1位を取るまでの大ヒットになったことで、当時の薬師丸ひろ子人気の凄まじさがうかがえる。


この時期の薬師丸ひろ子は、81年末に公開された主演映画『セーラー服と機関銃』が23億円の配給収入をあげ、翌82年の日本映画1位を記録。彼女自身が歌った同名主題歌も1位となり、前作『ねらわれた学園』の頃から急激に高まった人気が大爆発していたのである。大阪の梅田東映など大阪の3館の劇場では公開2日目の舞台挨拶を予定していたところ、徹夜組含め8000人が殺到し、機動隊まで出動する騒ぎとなり、舞台挨拶は中止、空港や新幹線の駅にまでファンが押し寄せた。


もともと薬師丸は『野性の証明』1本で引退することも考えており、あまり女優業や芸能界での仕事を継続していくつもりがなかったといわれる。また学業を優先する姿勢が強く、『セーラー服と機関銃』公開直後に、翌82年は大学受験のため芸能活動を控える旨を宣言している。


彼女を発掘した角川映画総帥・角川春樹の方針もあり、薬師丸ひろ子を自身の角川春樹事務所に所属させ、角川書店から発売される情報誌『バラエティ』で頻繁に彼女の情報を露出させる以外はアイドル雑誌への登場も少なく、テレビの歌番組にもほとんど出演させていない。ドラマもテレビ朝日の『敵か?味方か? 3対3』(78年)とTBS系の単発ドラマ『装いの街』(79年)の2本しか出ていないのだ。学校を休む必要のある仕事や、歌の仕事に難色を示していた薬師丸の意向に沿ったものともいえるが、一方では彼女の露出を制限することで、「スクリーンでしか会えないアイドル」を生み出し育成する戦略もあったようだ。もともと他のアイドルや女優に比べ露出が少なかったところに加え、人気が沸騰した1982年に休業宣言をしたことで、彼女の神秘性は高まり、ファンは完全に飢餓状態となってしまったのである。


休業時期の82年、薬師丸の姿を熱望するファンの熱気に応える形で、80年に公開された主演映画『翔んだカップル』のディレクターズ・カット版にあたる『翔んだカップル オリジナル版』が4月29日に公開され、さらに同年7月10日には、カットされたシーンを加えた『セーラー服と機関銃 完璧版』が公開されたが、この併映として前述のテレビドラマ『装いの街』まで劇場公開されることになった。まだビデオレンタルも動画配信もない時代、ファンの受け皿はこういった形で行なわれたが、『青春のメモワール』も、本人不在の熱狂の中で生まれたアルバムであり、チャート1位であったのだ。


2013年の大晦日、NHK『紅白歌合戦』で、同年の朝ドラ『あまちゃん』出演者によるスペシャル企画が行なわれた。ここで番組の重要なモチーフとなっていた「潮騒のメモリー」を登場人物たちがメドレーで歌うコーナーがあり、トリで登場した薬師丸ひろ子に、驚愕にも近い声援が送られ、twitterでも熱狂の坩堝となったことは記憶に新しい。こういう舞台には滅多に出ない人、という観客や視聴者が彼女に持つ神秘的なイメージは、人気絶頂期から30年を過ぎてもいまだキープされていたのである。今となっては数少ない「映画女優」という形容が似合う人なのだ。


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