2018年07月25日

1969年の本日7月25日 長谷川きよしが「別れのサンバ」でデビュー

執筆者:本城和治

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長谷川きよし(本名長谷川清志)の名前を知ったのは森山良子からだった。69年春に偶々彼女と打ち合わせでお茶をした時に「昨日ギターの凄く巧い眼の不自由な新人の男の子とイベントで一緒になったの」と云うのだ。そこで咄嗟に思い浮かんだのが前年に「ハートに火をつけて」の大ヒットを飛ばしたホセ・フィリシアーノだった。すぐにスケジュールを調べると銀座のシャンソンの殿堂『銀巴里』に近々出演するとの事、新興楽譜出版(現シンコーミュージック)の制作スタッフだった兼松光氏(後にきよしのプロデューサーになる)をつれて聴きに行った。


まだ若い(当時19歳)が落ち着いた雰囲気で瑞々しい歌声と素晴らしいギターテクニックに圧倒された。レパートリーもシャンソン(高3の時シャンソン・コンクールで4位入賞)からカンツォーネ、ジャズ・ナンバー、スピリチュアル&ブルース、フォルクローレやブラジルものから日本の歌まで幅広くジャンルに捉われずに面白い選曲をする。そして何より日本語を大事にする歌心、オリジナルも豊富で「別れのサンバ」などとても個性的だ。すぐに新興と録音契約して貰ってレコーディングの準備に入る。


マイク眞木、森山良子に続くフィリップス・レコード第3の逸材シンガー(ソング・ライター)として大いなる期待を持ってシングル、アルバム同時制作に踏み切る。アルバム収録曲は12曲でそのうち本人のオリジナル曲は9曲、カヴァー曲はアダモとベコーのシャンソンとオスカー・ブラウン・ジュニアがナット・アダレイのソウル・ジャズ・ヒット曲に作詞した「ワーク・ソング」(原語で)の3曲に留める。先行シングルとしてやはりインパクトの強い「別れのサンバ」と「ひとりぼっちの歌」のカプリングで録音スタートした。ビクター築地スタジオの6チャンネル・システム(8チャンネル・マルチはこの年末より導入)である。「別れのサンバ」は本人のガット・ギターと歌の演奏に村井邦彦のアレンジで薄くブラス・セクションとドラムを加える。ベースは当時長谷川のステージ・サポート、イベント企画をしていた金子詔一(名曲「今日の日はさようなら」の作詞作曲者であり、ジャズ・ヴォーカリスト金子晴美の実兄)である。


シングルは7月25日、アルバム『一人ぼっちの詩/長谷川きよし』は8月25日の発売となった。シングルは最初のうちは市場の反応が鈍かったが当時フォーク世代の若者に人気があった民放ラジオの深夜放送でオンエアされ出すと11月から売り上げが上ってきてロング・セールスを記録しオリコンのトップ100に34週ランクイン、40万枚の大ヒットとなった。2年前の森山良子のデビュー曲「この広い野原いっぱい」の2倍以上の売り上げ枚数である。顔なじみのビクター文芸部のディレクターから当時「よくあの地味な歌をヒットさせたね。ビクターではあんな難しい曲は先ず絶対に新譜編成会議に通らないよ」と云われた。確かにこんなハイブローなメロとリズムとコード進行の曲が流行り歌になった例はなかっただろう。史上画期的なヒット・ソングだ。でも時代は少しずつ変わってきていた。特にあの時代(GSの後期でカレッジ・フォーク・ポップスの全盛期)はポップス系の曲のヒットに深夜放送の影響力は欠かせなかったと思う。この曲もかっこいい洋楽の聴き歌の感覚でヒットしたのではないだろうか。

それにしても録音時まだ19歳の若者のこの見事な曲想と表現力、大した才能だと思う。あれから約50年、現在69歳(とても年に見えないが)。歌もギターもその表現力は更に一層磨きがかかって力強く、聴く者すべてを虜にする。特にYOU TUBEでも見られる仙道さおり(カホン)との息の合ったライブは圧巻である。また近年椎名林檎との共演(2005)やヨーロッパ・コンサートツアー(2010)、NHKTV『SONGS』出演(2012)、BSフジ「堺でございます」レギュラー出演(2014~)などで今迄長谷川きよしを知らなかった若い世代にも“日本のワールド・ミュージックの旗手”としてそのボーダーレスな歌とギター演奏の圧倒的な魅力が話題になっているようである。


長谷川きよしはフォーク世代だがフォーク歌手ではない。従ってフォークギターは弾かない。

彼は人を和ませる癒しの音楽を良しとはしない。人の心に風を巻き起こすようなもの、衝撃を与えるような歌を作りたいと思って音楽をやってきたのだと云う。

「黒の舟唄」や加藤登紀子とデュエットした「灰色の瞳」さらに「卒業」などのヒット曲はもとより今までに発表した22枚のアルバムと全国でのライブ活動で彼はジャンルを超えた世界中の歌の素晴らしさを伝えてくれているが、機会があったら是非ピアフの「愛の讃歌」や「マイ・ウェイ」の原曲であるクロード・フランソワの「コムダビチュード~いつも通り」等の見事な日本語訳詞の歌を聴いて頂きたい。どんな日本人歌手よりその楽曲本来の詞の内容表現に拘る彼の歌手としての矜持が感じられるのである。生涯本気で歌を愛し、歌に生きている証しである。



長谷川きよし「別れのサンバ」加藤登紀子/長谷川きよし「灰色の瞳」ジャケット撮影協力:鈴木啓之


≪著者略歴≫

本城和治(ほんじょう・まさはる):元フィリップス・レコードプロデューサー。GS最盛期にスパイダース、テンプターズをディレクターとしてレコード制作する一方、フランス・ギャルやウォーカー・ブラザースなどフィリップス/マーキュリーの60'sポップスを日本に根付かせた人物でもある。さらに66年の「バラが咲いた」を始め「また逢う日まで」「メリージェーン」「別れのサンバ」などのヒット曲を立て続けに送り込んだ。

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