2016年01月08日

元祖シンガー・ソングライター荒木一郎が生み出す音楽は、荒木個人に向けての「メッセージ」である

執筆者:中村俊夫

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本日1月8日は荒木一郎の72回目の誕生日(ちなみにエルヴィス・プレスリー、デヴィッド・ボウイも同日)である。1944年、女優・荒木道子の一人息子として生まれた彼は、9歳にして母親の古巣である文学座のアトリエ公演で初舞台を踏み、1962年に青山学院高等部卒業と同時に文学座入り。NHKテレビドラマ『バス通り裏』で本格的に俳優デビューを飾る。


65年から東海ラジオ『星に唄おう』(月~土PM10:50~11:00)のパーソナリティーを務めるが、高校時代から始めていた作詞・作曲活動を活かし番組内で数多くのオリジナル・ソングを披露。これが大きな反響を呼び、66年9月、番組テーマ曲でもある自作曲「空に星があるように」でレコード・デビューした。


当時、同じく俳優業の傍ら、いち早く自作自演曲をヒットさせ脚光を浴びていたのが加山雄三。天真爛漫な魅力をふりまく「陽」の加山に対し、どこか斜に構えた暗さのある「陰」の荒木といったイメージ (それはそのまま各々の役どころにも反映されていた)の両者だが、彼らに丸山(美輪)明宏を加えた三人こそが我が国におけるシンガー・ソングライターの先駆けとして、ポピュラー音楽史にその名を残すのである。


マイク真木「バラが咲いた」、ザ・ブロードサイド・フォー「若者たち」、加山雄三「旅人よ」等、フォーク調のヒット曲がたて続き、ビートルズ来日前後から後にGSと呼ばれるバンドたちの胎動も始まって、日本の音楽シーンが新たな局面を迎えた1966年…そんな時代性を反映して「空に星があるように」も若い音楽ファンたちの支持を得てヒット。荒木はこの年の第8回日本レコード大賞の新人賞を受賞した他、当時としては画期的な全曲自作自演書き下ろし曲だけで構成された(シングル曲は一切収録せず)1stアルバム『ある若者の歌』が芸術祭文部大臣奨励賞を受賞している。元祖シンガー・ソングライターの面目躍如といったところだろう。


その後、「今夜は踊ろう」(66年)、「いとしのマックス(マックス・ア・ゴーゴー)」(67年)といったヒットが続き、俳優としても第1回映画評論新人男優賞を受賞した『893愚連隊』(66年/東映)をはじめ、『日本春歌考』(67年/松竹)、『今夜は踊ろう』(67年/大映)等での演技が高く評価され順風満帆…と思いきや、69年に女性関係のスキャンダルに巻き込まれたことにより、世間からバッシングを受け、約2年近く芸能界から干された状態となってしまう。



しかし、その間にも自ら「パシフィック」というレーベルを立ち上げ、自主制作8トラックテープ『Z.pac荒木一郎の世界』(69年)をリリースするなど、音楽創作活動は継続しており、東映のやくざ映画などで芸能界復帰後の71年には浅野孝已(ゴダイゴ)、加納秀人(外道)、岡沢章などを輩出したことで知られる実力派グループ「エム」のデビュー・アルバムをプロデュース。クレジットはされていないが自作曲も提供し、彼が音楽を手がけた映画『セックスドキュメント性倒錯の世界』(監督:中島貞夫/東映)にも使われた。


1974年にはトリオ・レコードに移籍。83年までに8枚のアルバムを発表し、シングル「君に捧げるほろ苦いブルース」(75年)をヒットさせている(オリコン39位)。また、岸本加代子「北風よ」(77年)、TENSAW「Big Birdを待たないで」(79年)、桃井かおり「哀しみのラストタンゴ」(80年)、風間杜夫「ララバイ・ロックンロール」(83年)、和田弘とマヒナスターズ「午後の陽射し」(83年)など、他のアーティストへの楽曲提供も精力的に行なっており(映画・TVドラマがらみのものが多かった)、彼のソングライターとしてのキャリアの中で最も充実していた時期と言えるだろう。


俳優、音楽家だけでなく、カード・マジシャン、実業家…とマルチな活動を展開している荒木だが、シンガー・ソングライターとしての特性に限っては、「音楽はメッセージ」と語る彼の言葉どおり、その作品が限りなく荒木個人に向けての「メッセージ」であるということに尽きるのではないだろうか。そこには「売れ線狙い」も「商業性重視」も無い、あくまでも自分と対峙して生まれて来た楽曲なのである。そんなピュアな創作姿勢は、確固たるオリジナリティーの発露としての音楽活動を継続しているアーティスト…そう、「純音楽家」を標榜する遠藤賢司とも似た部分を感じてしまうのである(筆者だけ?)。
ゴールデン☆ベスト荒木一郎~ビクター篇荒木一郎 (アーティスト, その他), 山上路夫 (その他), 諏訪優 (その他)

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