2019年01月18日

本日1月18日は桑江知子の誕生日~SMSレコードが放った第1号新人

執筆者:丸芽志悟

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1960年(昭和35年)の本日1月18日は、桑江知子の誕生日。


桑江知子といえば、何と言っても丁度40年前、79年1月25日に発売されたデビュー曲「私のハートはストップモーション」。未だにこの曲のAメロはおろか、それを追いかけるフルートのオブリガードさえ、鮮烈に口をついて出てくる。この曲を持ってして、第21回日本レコード大賞・最優秀新人賞を受賞したのも納得するしかない。曲そのものの生命力が半端無いのだ。ちなみにオリコンチャートでは最高順位12位。アリス、ゴダイゴを筆頭に激戦区だった79年初頭、新人のデビュー曲としては大健闘である。


その年の新人賞ノミネートの顔ぶれはといえば、他に井上望、倉田まり子、竹内まりや、松原のぶえといったところ。アイドル愛好者にとっては「空白の1年」とされることが多いが、確かに従来の芸能界の色と、勢いが止まらないニューミュージック界からの影響がバランス良く共存した、他の年とは明らかに毛色の違うラインアップになっている。まりやや同時期デビューした杏里、越美晴も、初期の頃はアイドル的なメディア露出を余儀なくされていたし。この傾向は実は80年に入っても密かに続いており、現に松田聖子を「新人ニューミュージック歌手」とカテゴライズした音楽誌もあったほどである(その後の音楽的展開を思うと納得)。


今回の主役・桑江知子も例に漏れず、洗練された曲調を伸びやかに歌いこなすデビュー曲で、いわばネオ・アイドル路線の旗手となった。最初に聴いた時は、既に「ストップモーション」という楽曲を発表していた尾崎亜美が書き下ろした楽曲なのかな、とさえ思った。実際は竜真知子・都倉俊一のコンビによる作品。そろそろ勢いに陰りが見え出したピンク・レディーのどポップ路線からの揺り返しを、その曲に託したのだろうか。ちなみに都倉氏は、その4日前にリリースされた倉田まり子のデビュー曲「グラジュエイション」も手がけている。こちらも脱・ピンク色が濃く出た、歌唱力を要求される佳曲だ。


そんな桑江を送り出したレコード会社は、2ヶ月前に発足したばかりのSMS(サウンズ・マーケッティング・システム)レコードである。従来資本提携していたワーナー・パイオニア(当時)の元を離れ、渡辺プロダクションが史上初の芸能事務所直営レコード会社として設立し話題となった同社の第1回新譜は、78年11月25日(YMOやまりやのデビュー日でもある)に発売された小柳ルミ子のシングル「雨…」(中島みゆき作品)。以降、旧ワーナー組のルミ子とアグネス・チャンを主軸にしつつ、新人や企画ものの売り出しに力を入れていたが、そんな新人第1号の桑江でいきなり大当たりを引いたというわけである。


SMSでの「第1期活動」ではシングル4枚、LP3枚をリリース。伸びやかな歌唱を活かした都会的な楽曲を数多くこなし、近年は「ライトメロウ」とか「シティポップ」の文脈で再評価され、CDリイシューも実現している。本人の歌手活動は決してその後も緩むことはなく、最近は生まれ育った沖縄のルーツを濃く反映した楽曲を主軸に取り組んでいる他、ライヴ活動も活発にこなしている。


ついでに、この機会をいいことにSMSレコードのその後について振り返っておこう。

芸能プロダクション主導レーベルとしてスタートしつつ、活動2年目にしてあっと驚く動きに出ているのだ。活動を停止した東宝レコードからURCの発売権を引き継ぎ、80年1月を皮切りにリイシュー・シリーズを開始。ナベプロとアングラ・レコード・クラブの蜜月なんて、有り得なさすぎる現象であったが、ここで初めて世に出た音源もあったりして、マニアに熱い注目を浴びた。この提携は80年代中頃まで続き、よってはっぴいえんどを初めてCDで出したレコード会社は、実はSMSだったのである。

さらに洋楽ファンにとって忘れられないのは、82年に英国パイ・レコードの発売権を獲得し、キンクスのアルバムを一斉リイシューしたこと。新しいファンは一斉にこの機会に飛びついた。さらに翌年にはT.レックスのカタログを獲得。筆者もこの時、熱心に彼らのアルバムを集めたものだ。85年には時代の最先端を走っていたレコードショップ、WAVEと提携してWAVEレーベルを発足。ドイツのアインシュテュルツェンデ・ノイバウテンを筆頭とする「尖った音楽」を日本のメジャー流通に乗せ紹介した。ヘヴィメタル・ファンなら、ラジャス、マリノを筆頭とする「ジャパメタ」勢の紹介や、各国の独立レーベルと提携したメタル専門レーベル「FEMS」も忘れられないはず。

もちろんマニア路線のみに留まらず、『8時だョ!全員集合』から生まれた大ヒット曲「『ヒゲ』のテーマ」や、あのエマニエル坊やの「シティ・コネクション」など企画ものに強く(あのソラミミスト・安斎肇氏は元々同社専属のデザイナーであり、前者の「切り抜き」ジャケットを手がけてもいる)、84年にデビューさせた吉川晃司は同社を代表するスターになった。そんなSMSも88年には親会社となっていたナベプロ資本のテープメーカー・アポロン音楽工業(後にバンダイミュージック)に吸収され、静かに冠を降ろした。

もし国営放送局で1日レコード会社三昧という企画が放送できるのならば、アルファレコードとこのSMSだけはぜひ聴いてみたいものだ。もちろん、桑江さんをアシスタントに招いてね。


桑江知子「私のハートはストップモーション」「『ヒゲ』のテーマ」(『8時だョ!全員集合』)ジャケット撮影協力:鈴木啓之 

≪著者略歴≫

丸芽志悟 (まるめ・しご) : 不毛な青春時代〜レコード会社勤務を経て、ネットを拠点とする「好き者」として音楽啓蒙活動を開始。『アングラ・カーニバル』『60sビート・ガールズ・コレクション』(共にテイチク)等再発CDの共同監修、ライヴ及びDJイベントの主催をFine Vacation Company名義で手がける。近年は即興演奏を軸とした自由形態バンドRacco-1000を率い活動、フルートなどを担当。初監修コンピレーションアルバム『コロムビア・ガールズ伝説』3タイトルが2017年5月に、その続編として、新たに2タイトルが10月に発売された。

ボーン・フリー(野性に生まれて)+5 [名盤1000円] Limited Edition 桑江知子 形式: CD

Kuwae Tomoko Best 桑江 知子 2002/3/20

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