2019年04月30日

1973年4月30日、麻丘めぐみ「森を駈ける恋人たち」がリリース~黄金期であった“歌無し歌謡”から見る当時のヒット事情

執筆者:丸芽志悟

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遂に、本日4月30日で「平成」の幕が降りる。序章から終幕まで30年、音楽愛好者の一人としてクールな目で捉えてきたはずなのに、どうしても「昭和」を語る時のように熱くなれない。と言えども、来るべき世代のためにこの時代を語り継ぐ使命を筆者は持っているので、明日から始まる「令和」に於いても、筆者に数多のチャンスを与えて頂いた「大人のMusic Calendar」が変わらず勢いを保つことを祈ってやみません。


というわけで本日の主題は、1973年(昭和48年)の今日4月30日発売された麻丘めぐみの4枚目のシングル「森を駈ける恋人たち」。普通、新曲の発売日が月の最終日に設定されることは、「オリコン対策」が公の言葉となった80年代中期以前では珍しく、普通なら翌月1日にしそうなものだが、なぜか当時のビクター系は必ずと言っていいほど5の倍数の日に発売日を設定していたのである。

ともあれ、麻丘めぐみさんのこととなると、書きたいことが多すぎて(特にお姉さんである藤井明美さんのことへ脱線して、物凄い文字数を費やしそう)個人的に暴走してしまいそうなので、平成最後のコラムらしく、敢えて意表を突く方面へと舵を切りたいと思う。


昨年暮れの「大人のMusic Calendar忘年会」でのDJトークでその片鱗を垣間見せた通り、ここ数年の筆者にとっては「歌のない歌謡曲」のレコードを漁ることが、至高の愉しみと化している。正に昭和の場末感を彩った、雰囲気作りの権化と言えそうな音盤から流れ出すメロディーに時代の色を感じ、その時々の自分が通った道をフラッシュバックさせるのだ。

ことに、1972~74年に残されたその手の音盤に、たまらない愛しさを感じる。メロディーが芳醇なだけではない。急速に進歩する録音技術の恩恵を受け、サウンドそのものが従来に比べて豊かになり、編曲も鮮やかさを増した。決して通常のヒット・レコードを追いかけるだけでは得られない、不思議な快感が駆け抜けていく。


この「森を駈ける恋人たち」も、まさにそんな「歌無し歌謡黄金期」のヒット曲の一つだけあり、実に6種類の収録レコードが手元に揃ってしまった。それぞれにユニークなアレンジが施され興味深い。それらの曲目を見ながら、当時のヒット事情を振り返ってみよう。


マキシムというマイナー・レーベルからリリースされた『最新ヒット歌謡20!! 若葉のささやき/春のおとずれ』。タイトルとなった2曲は、言うまでもなく当時の2トップ、天地真理と小柳ルミ子の最新ヒット曲で、他にも当時のトップスターのあたり曲がズラリ。ここで聞かれるのは、当時ソロ活動をスタートさせたばかりのアイ高野の実父・ジョージ高野のサックスをフィーチャーし、ファズ・ギターも効いた小気味好い演奏。と言えども、マイナーならではのせこさは否めない。


当時ビクターが製造していた電子オルガン「ビクトロン」を使い、アイドル系ポップ・ナンバーを中心に取り上げたのは、その筋ではアイドル的存在になっていた森ミドリの『恋する夏の日 さわやか!! 最新ヤングヒット』。こちらもタイトル曲は真理ちゃんの大ヒットである。ヤードバーズ「フォー・ユア・ラヴ」を意識したような「森を駈ける~」のグルーヴ感も捨てがたいが、むしろ聴き物なのはバンド演奏を廃し、自らのスキャットと効果音をフィーチャーしてサービス精神を発揮した「避暑地の恋」(チェリッシュ)と「赤い風船」(浅田美代子)。


歌無歌謡の王者、クラウンからは2枚。『恋にゆれて ビッグ・ヒット歌謡ベスト18』には、クラウンの雄、まぶち・ゆうじろう'68オールスターズの演奏が収録されている。咆哮するサックスは、原曲のラブリーさも御構い無しな場末感の極致だ。

対して、名物『ドラム・ドラム・ドラム』シリーズの一枚『赤い風船』では、こちらも原曲のレトリック無視で暴走するありたしんたろうのスティックさばきで見事にニューロック化。このアルバムの録音は、原曲の発売からわずか16日後、1日で行われているという早業ぶりだ。当時の歌無歌謡ビジネスの性急さが窺い知れる。


再評価著しいトリオ・レコードからリリースされた『魅力のマーチ・小さな恋の物語 歌謡ヒット・ベスト40』は、メロトロンの洪水に耳が震える「ひとりっ子甘えっ子」(浅田美代子)、カンタベリーの如く甘美なアレンジが施された「なみだ恋」(八代亜紀)などが収録され、個人的に超重要な2枚組。ここではブラスをフィーチャーし、やはり攻めに攻めまくるアレンジで料理されている。


最後に控える最重要盤は、めぐみを擁するビクターからリリースされた『さわやかなヒット・メロディー』。めぐみが4曲、チェリッシュが4曲、桜田淳子が2曲、ノン・ノン(!)と松下恵子(!!)各1曲という、自社の若手女性歌手に特化した内容が当時としては異色だが(むしろ66年以前はそれが普通だったが、話すと長くなるので別の機会に)、全編でフィーチャーされている楽器がリコーダーというのがまた、孤高感を醸し出している1枚。確かに、そのラブリーな音色は乙女心の音像化には持ってこいだ。バックのサウンドもカラフルに固めていて、流石に自社財産は慎重に扱っているなという印象。


当然この『さわやかな~』には収録されていないが、他の5枚全てに入っている曲に南沙織の「傷つく世代」がある。当時無敵の勢いを見せていた筒美京平が、トップアイドルに提供したマイナーキーの陰りある曲調という点で、この2曲は姉妹関係にあると言えそうだが、一日遅れて出たこの曲の方がチャート上では圧勝に終わっている。「森を駈ける~」が最高7位、20万枚に対し、「傷つく世代」は最高3位、27万枚売れた。この対決は、次作「わたしの彼は左きき」対「色づく街」であっさりめぐみの大逆転勝ちへと転じている。蛇足ながら、新元号の発表と同時に「傷つく世代」のイントロリフが脳内で流れた方も多かったでしょうなぁ…。



『最新ヒット歌謡20!! 若葉のささやき/春のおとずれ』『恋する夏の日 さわやか!! 最新ヤングヒット』『恋にゆれて ビッグ・ヒット歌謡ベスト18』『魅力のマーチ・小さな恋の物語 歌謡ヒット・ベスト40』『さわやかなヒット・メロディー』麻丘めぐみ「森を駈ける恋人たち」南沙織「傷つく世代」ジャケット撮影協力:丸芽志悟&鈴木啓之

南沙織「傷つく世代」写真提供:ソニー・ミュージックダイレクト


≪著者略歴≫

丸芽志悟 (まるめ・しご) : 不毛な青春時代〜レコード会社勤務を経て、ネットを拠点とする「好き者」として音楽啓蒙活動を開始。『アングラ・カーニバル』『60sビート・ガールズ・コレクション』(共にテイチク)等再発CDの共同監修、ライヴ及びDJイベントの主催をFine Vacation Company名義で手がける。近年は即興演奏を軸とした自由形態バンドRacco-1000を率い活動、フルートなどを担当。2017年 5月、3タイトルによる初監修コンピレーションアルバム『コロムビア・ガールズ伝説』が発売。また10月25日には、その続編として新たに2タイトルが発売された。

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