2019年05月01日
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2019年05月01日
1973年5月1日、南沙織「傷つく世代」がリリースされた。
デビュー3年目の春にリリースされた通算7枚目のシングル。イントロのエレキ・ギターのフレーズが「いとしのレイラ」(デレク&ザ・ドミノス)に酷似していると話題になったが、弦アレンジ等を含めた全体のサウンドはエルトン・ジョンのアルバム曲「罪人にあわれみを」(『ピアニストを撃つな』収録)を参照したものと推測される。いずれにせよお馴染みの“♪ミソラドラソラ”のフレーズ(後者では歌メロにも登場)はブルースの常套句であり、言ってみればパブリック・ドメインみたいなもの。
ちなみに約1年前の同傾向のナンバー「純潔」では、ヴァン・モリソンのヒット曲「ワイルド・ナイト」からギターのフレーズ(弾いているのはロニー・モントローズ)を引用。洋楽トレンドの細かいところまで(イントロだけとはいえ)チェックを入れていた筒美京平の姿勢に改めて驚かされるが、それよりも重要なのはこの1年間でサウンドのロック度が飛躍的に向上したことであろう。やはり1972年から73年にかけて日本のスタジオ・ミュージシャンの中核を成すリズム・セクション(ドラムス&ベース)が、ジャズ系のメンバーから戦後生まれのGS出身者へと世代交替が進んだ様が顕著に窺われる。
さらに翌74年のジャンプ・ナンバー「夏の感情」では、セッション・メンとしてキャラメル・ママ(ティンパン・アレー)の面々を起用、彼らの得意とするヘッド・アレンジではなく書き譜を指揮に従って弾く演奏ではあったが、モータウンやスタックスを思わせるソウル/ R&B的なニュアンスを含むサウンドに仕上がった点は注目される。
ところで筒美京平によるこうした疑似ロックンロール的な楽曲には、戦後世代やGS出身の他の作曲家には見られないどこかヴァーチャルな味わいがあって、マニアにはたまらない魅力となっている。このあたりにクラシックやジャズのバックグラウンドはあっても、コンボ形式のバンドでプロのミュージシャンとして活動した経験はないという同氏のキャリアの特異性が現れているのかもしれない。
「傷つく世代」と同じ73年には秘蔵っ子の平山三紀にもアップテンポの「恋のダウン・タウン」を提供、以降レーベルを移るごとに75年の「真夜中のエンジェル・ベイビー」、79年の「マンダリンパレス」と続くのだが、この間の時代のスピード感の変化とサウンドの先鋭化には目が眩む想いがする。70年代の男性歌手の曲でこの種の代表作を挙げるとすればやはり郷ひろみの「恋の弱味」(76 年)ということになるだろう。
さて、南沙織に話を戻すと作詞の有馬三恵子を含めたチームのコンビネーションは絶好調を続けており、この年も年頭の「早春の港」に始まり夏から秋にかけては「色づく街」「ひとかけらの純情」と神曲を連打。「傷つく世代」においてもサビからAメロに戻るあたりでブレイク気味に畳み掛ける展開など秀逸の極みと言っていいだろう。またタイトルを決めてから作詞家に発注したという酒井政利プロデューサーも“ヤングアイドルの成長に合わせてスト-リーを展開する”というコンセプトを確立、同年春には新人の山口百恵を「としごろ」でデビューさせている。
南沙織「傷つく世代」「夏の感情」「早春の港」「色づく街」「ひとかけらの純情」郷ひろみ「恋の弱味」写真提供:ソニー・ミュージックダイレクト
≪著者略歴≫
榊ひろと(さかき・ひろと):音楽解説者。1980年代より「よい子の歌謡曲」「リメンバー」等に執筆。歌謡曲関連CDの解説・監修・選曲も手掛ける。著書に『筒美京平ヒットストーリー』(白夜書房)。1975年8月1日、平山三紀(現表記は平山みき)の「真夜中のエンジェル・ベイビー」が発売された。CBSソニー移籍後の第3弾として発売されたシングル。引き続き橋本淳=筒美京平コンビによる作品だが、...
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