2017年04月20日

財津和夫率いるチューリップにおける「心の旅」の功罪

執筆者:前田祥丈

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1973年4月20日、チューリップの代表曲のひとつとなった「心の旅」がリリースされた。


チューリップは財津和夫が福岡で結成していたバンドだが、72年にデビューのため上京している。この時のメンバーは結成時とは違い、財津の周囲のバンドから有力メンバーを集めて東京に乗り込んできたというものだったという。


しかし、同年6月に発表されたデビュー曲「魔法の黄色い靴」と同名のアルバムはほとんど反響を得ることができず、9月に発表した「一人の部屋」も不発だった。そんな彼らにとって、これがヒットしなれば福岡に帰らなければならないという、まさに勝負の一作がこの「心の旅」だった。

 

結果として「心の旅」は発売から数か月かけてチャートの1位まで上り詰め、チューリップは大きく脚光を浴びることとなる。けれど、「心の旅」の成功は、チューリップにとって功罪半ばするものだったのかもしれないとも思う。


それまでチューリップのシングル曲は作詞・作曲者である財津和夫がヴォーカルを担当してきたけれど、「心の旅」では声質もルックスも財津よりソフトな姫野達也がメインヴォーカルをとっていた。ポップさにあふれた楽曲とヴォーカルがマッチしたこの曲は、既成の歌謡曲には飽き足らないけれど先鋭的なフォークソングやロックにも違和感を感じていた若いリスナーの心をキャッチする新鮮なポップ・ミュージックと受け止められたのだと思う。


確かに「心の旅」はこの時代において新鮮なインパクトを持っていた。けれど、このマイルドな曲のおかげでチューリップはアイドル・グループ的な受け取られ方をしてしまったということもあったのではないかと思う。そして、彼ら自身もその期待に応えようとする気持ちもどうしても出てしまっていたのではないかという気もする。

 

思い出してみれば、1973年春の日本のバンドシーンは,規模としては必ずしもメジャーではなかったけれど、各地で個性的なグループがユニークな活動を展開する“群雄割拠”とも言うべき状態だった。


はっぴいえんどは事実上解散状態だったけれど、アメリカ・レコーディング・アルバム『HAPPY END』を2月に発表して存在感を示していた。やはりこの年に解散したフラワー・トラべリン・バンドも2月にアルバム『MAKE UP』を発表していた。その一方で、ロンドンポップ色を打ち出した加藤和彦のサディスティック・ミカ・バンド、京都ブルースシーンを代表するウエスト・ロード・ブルース・バンド、破天荒なライヴでセンセーションを起こした村八分などが、ロックの可能性を広げていた。


チューリップもソフトロック系バンドとしてこの時代のロックシーンに多様性をもたらす存在のはずだった。けれど、正直に言えば僕には当時のチューリップにロック的イメージをあまり感じられなかった。それは、やはり「心の旅」という作品で彼らが成功を得たせいだったかもしれない。


その後、チューリップは76年のビートルズ・カバーアルバム『ALL BECAUSE OF YOU GUYS-すべて君たちのせいさ』など、自分たちのルーツをアピールする作品を積極的に発表するなど、ロック・バンドとしてのカラーも鮮明にしていく。

 

今思えば、当時のチューリップにロック色を感じなかったのは、彼らが打ち出していたのが、同じビートルズテイストでもポール・マッカートニー色の強いものだったからかもしれない。73年当時は、ジョン・レノン的エッセンスの方がビートルズ的だとする風潮があったし 、僕もまたそんな感覚だったということだったのかな、とも思う。


≪著者略歴≫

前田祥丈(まえだ・よしたけ):73年、風都市に参加。音楽スタッフを経て、編集者、ライター・インタビュアーとなる。音楽専門誌をはじめ、一般誌、単行本など、さまざまな出版物の制作・執筆を手掛けている。編著として『音楽王・細野晴臣物語』『YMO BOOK』『60年代フォークの時代』『ニューミュージックの時代』『明日の太鼓打ち』『今語る あの時 あの歌 きたやまおさむ』『エゴ 加藤和彦、加藤和彦を語る』など多数。

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