2018年03月15日
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2018年03月15日
3月15日は、ギタリスト・音楽家の井上堯之の誕生日。「ザ・スパイダース」においては、日本のバンドサウンドの黎明を根底で支え、沢田研二・萩原健一の双頭ヴォーカルを擁する「PYG」リーダー時代には、GS/ニューロック双方の信望者からの逆風に、ただひたすら真摯な音で立ち向かっていた彼。そうした孤高のギタリストとしてのイメージとは別に、彼には、映画・テレビのサウンドトラック・メイカーとしての大きな功績があることも忘れてはならないだろう。
その端緒を開いたのは、PYGで活動を共にした俳優:萩原健一との信頼関係であり、萩原を事実上の主役に向かえ、1972年7月に放映が開始された刑事ドラマ『太陽にほえろ!』のテーマ、および劇中音楽への参加である。作曲こそ大野克夫によるものだが、その演奏を担当していたのは、PYGの別称とも言える「井上堯之バンド」。その後も、作編曲家としての「井上堯之個人」、サウンド作りの舵取り役を担う「井上堯之バンド」という、2つのアプローチを巧みに使い分けながら、テレビドラマ『傷だらけの天使』(1974/NTV系)、『前略おふくろ様』(1975/NTV系)、映画『青春の蹉跌』(1974/東京映画)、『雨のアムステルダム』(1975/東宝映像)、『アフリカの光』(1975/東宝)などの劇中音楽を担当し、萩原健一主演作を音楽面から支える名パートナーとなっていく。
ストーリーの流れや俳優の心情をやたらと後押しする「盛り上げ型」ではなく、少ない音数でドラマのポイントにアクセントを置いていくような「引き締め型」の彼のアプローチは、小編成のバンドを基本とするロック・ミュージシャンとしての経験とセンスが発揮されたものといえるだろう。加えて、自らヴォーカルを取ることもある井上堯之が持つ「歌心」の成せる業ではないだろうか。彼の描く優しく甘いメロディが、希望や安らぎをふくんだ暖かな空気感となり、ドラマの情感に最高にフィットすることもしばしば。そして、そのいずれもが、重厚な編成による60年代のファットなサントラサウンドとは異なる、かつてないスリリングさと爽やかさに満ちていた。
そうした作風が評判を呼び、70年代後半にかけては、久世光彦演出による大ヒットドラマ『寺内貫太郎一家』(1974/TBS)、ドキュメンタリー映画『野生号の航海~翔べ怪鳥モアのように』(1978/角川)、PYG時代の盟友である沢田研二の主演映画『太陽を盗んだ男』(1979/キティ)等の劇中音楽の作曲、また、映画『戦国自衛隊』(1979/角川)への挿入歌提供など、次々とヒット作、大作、話題作への参加が続き、活動の範囲を広げていく。
また80年代に入ると、バンドサウンド主体の音作りからさらに一歩踏み込み、ATG作品『遠雷』(1981/ATG)、高倉健主演映画『居酒屋兆治』(1983/田中プロ)、吉永小百合・松田優作主演の文芸作『華の乱』(1988/東映)などの音楽で作風を広げ、1987年の第10回日本アカデミー賞では、坂本龍一や武満徹をおさえ、『火宅の人』(1986/東映)、『離婚しない女』(1986/松竹)で最優秀音楽賞を受賞するなど、一流サウンドトラック・メイカーとして広く認められる存在となっていく。その後も、鈴木清順、恩地日出夫、長尾啓司の3人によるオムニバス映画『結婚』(1993/セシール)、『イルカに逢える日』(1994/ヒーロー)、三國連太郎・佐藤浩市父子が劇中でも反目する親子を演じた人気漫画の映画化作品『美味しんぼ』(1996/松竹)などで音楽を担当している。
60年代には、クラシックや純音楽の大家、撮影所系の職人的映画音楽作曲家、ジャズミュージシャン出身者などに占められていた日本の映画・テレビ音楽の世界。70年代に入ると、その強固な既成概念に風穴が開き、ゴダイゴ、SHOGUN、トランザム、マライアなどのロック系ミュージシャン/バンドが次々と参入、映像音楽そのものが大きく様変わりを遂げていく。しかし、その変革の先頭に立ち、ジャパニーズ・サウンドトラックの新時代を最初に切り拓いたのは、あの鋭く冴えた、井上堯之のギターの音なのである。
≪著者略歴≫
不破了三(ふわ・りょうぞう):音楽ライター、CD企画・構成、音楽家インタビュー 、エレベーター奏法継承指弾きベーシスト。CD『水木一郎 レア・グルーヴ・トラックス』(日本コロムビア)選曲原案およびインタビューを担当。
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