2018年03月25日
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2018年03月25日
映画『犬神家の一族』(1976)、『人間の証明』(1977)、『野性の証明』(1978)という、初期角川映画三部作を音楽面から支えた作曲家:大野雄二。1970年代前半からテレビドラマやCM音楽の作編曲を手掛けていた彼は、『犬神家の一族』で新鋭の映像音楽職人として脚光を浴び、『人間の証明』、『野性の証明』と1年毎に角川映画での経験を重ねる一方、TVでは『ルパン三世(第2シリーズ)』(1977~1980)、『大追跡』(1978)、『24時間テレビ~愛は地球を救う』(1978~)、『キャプテン・フューチャー』(1978)などの作品を手掛けていく。そして『ルパン』が終了する1980年までの4年間に、現在広く世間が認知している「大野雄二サウンド」を完成させていった……ということを、前稿<第8回 映画『人間の証明』における大野雄二の音楽>までに整理させて頂いた。今回はまとめとして、大野雄二音楽の「角川映画以後」の展開と、2018年4月13日、14日に予定されている『角川映画 シネマ・コンサート』へと至る道筋についてお話したい。
PHOTO:木場 ヨシヒト
大野雄二の新たな飛躍は、実は『人間の証明』と『野性の証明』の間に既に始まっていた。しかも、鍵となるのは『人間の証明』の主演の一人である松田優作。1976年のデビューアルバム『まつりうた』から松田と親交のあった大野は、東映セントラルフィルムによる松田主演のハードボイルドアクション中編『最も危険な遊戯』(1978年4月公開)でも劇中音楽を手掛けている。ごく少数のミュージシャンによるスリリングなセッションや、アープ社の「ソリーナ・ストリング・アンサンブル」を駆使した静謐なサウンドで形作られたBGMは、まさしく『犬神家の一族』『人間の証明』の経験で磨かれた大野の手法。しかも、ストリップ劇場のBGMとして「人間の証明のテーマ」をパロディに使うという豪快さも見せている。低予算ながら大ヒットを記録したため、シリーズ第2作『殺人遊戯』(1978年12月公開)、第3作『処刑遊戯』(1979年11月公開)も作られ、音楽は全て大野が担当している。これら「遊戯シリーズ」も、大野雄二サウンドが完成に至る4年間の作品群として、欠くことのできない存在となっている。
そして1970年代後半から現在に至るまで、大野雄二音楽を貫く一本の柱として強烈な光を放っているのが、言うまでもなくアニメ『ルパン三世』シリーズの音楽である。前述のテレビ第2シリーズの期間中に公開された、『ルパン三世 ルパンVS複製人間』(1978年12月公開)、『ルパン三世 カリオストロの城』(1979年12月公開)という2本の劇場用新作でも、音楽はもちろん大野が担当している。さらに、1980年代に入っての第3テレビシリーズ『ルパン三世 PARTⅢ』(1984)、劇場第3作『ルパン三世 バビロンの黄金伝説(1985)では、当時最新鋭のFM音源シンセサイザーや電子ドラム「シモンズ」、残響感を自在に演出するデジタルエフェクターなどを駆使した、まさしく「80年代感」満点の新型大野雄二サウンドが披露されている。今となっては、この80年代独特のキラキラしたサウンドは、後の90年代~2010年代にもなかなか再現されない(音楽・音響機材面で再現しにくい)、得難い大野雄二サウンドとなっているので、特に注目である。
そして、1989年の『ルパン三世 バイバイ・リバティー・危機一発!』を皮切りに、ほぼ年に1作のペースで放送されていくテレビスペシャルが、90年代以降のルパンの主戦場となっていく。だが、1995年3月、ルパン三世を演じ続けてきた俳優:山田康雄が死去。ルパンで出会い、ソロアルバム「せ・しゃれまん」(1979/キング)を全面プロデュースするほどの盟友となっていた山田の死に際し、やはり思うところがあったのか、大野は翌1996年公開の劇場版『ルパン三世 DEAD OR ALIVE』、およびテレビスペシャル『ルパン三世 トワイライト☆ジェミニの秘密』を降板している。しかし『ルパン三世 ワルサーP38』(1997)で復帰。二代目ルパン声優となった栗田貫一を囲む新体制に、大野も加わっていくこととなる。この大野の復帰の決意がなければ、ルパン三世という作品も、大野雄二の音楽も、今とは違った未来を歩んでいたかもしれない。
1999年には、それまでのルパン・ミュージックをモチーフとした、コンボ編成のジャズアルバム『LUPIN THE THIRD JAZZ』を発売。同じ頃より、「大野雄二トリオ」をベースとした演奏活動に徐々にウェイトを移していき、大野は自身のルーツであるジャズピアニストへの回帰を果たしていく。2006年にはトリオに加え、トランペット、サックス、ギターを加えたクインテット「Yuji Ohno & Lupintic Five」を結成。アルバム『LUPIN THE THIRD JAZZ』シリーズも、『Bossa&Fusion』(2002)、『PLAYS THE "STANDARDS"』(2003)、『the 10th New Flight』(2006)、『FOR LOVERS ONLY』(2008)等、続々とリリースを重ね、トリオ、クインテット混在で演奏の幅を増やしていく。またこの頃より、ルパンのテレビスペシャルのBGM音楽製作にもLupintic Fiveでの演奏が増え、プレイヤーとしての演奏活動と、作編曲家としての劇伴製作作業がシームレスなものへと進化を遂げていく。さらに、その間の2005年には、それまでの音楽人生を振り返る2枚組のセルフカヴァーアルバム『Yuji Ohno,You & Explosion Band-Made in Y.O.-』を製作するという大仕事を成し遂げていることも書き添えておくべきだろう。このアルバムでは、『犬神家の一族』メインテーマ「愛のバラード」を津軽三味線奏者:上妻宏光をフィーチャーして再演奏している他、『野性の証明』主題歌「戦士の休息」を石井竜也が、『人間の証明』主題歌「人間の証明のテーマ」をゴダイゴのトミー・スナイダーが、それぞれカヴァーしている。
2015年12月、結成10周年記念の『ルパン三世コンサート〜LUPIN! LUPIN!! LUPIN!!! 2015〜』をもってYuji Ohno & Lupintic Fiveが解散。突然の解散発表に誰もが大野雄二サウンド、ルパン・ミュージックの今後を憂いていたが、2016年3月にはメンバーを入れ替え、さらにハモンドオルガンを新たに加えたセクステット編成の「Yuji Ohno & Lupintic Six」の結成が発表され、多くのファンを安堵させた。Lupintic Sixには、『犬神家の一族』『人間の証明』『野性の証明』全てのアルバムレコーディングに参加しているドラマー:市原康や、元「SHOGUN」のメンバーで、『野性の証明』『ルパン三世(第2シリーズ)』のレコーディングに参加しているベーシスト:ミッチー長岡ら、大野の長年の朋友であるベテランのリズムセクションが参加したことも、ファンを大いに驚かせ、喜ばせた。2018年4月より放送が予定されているテレビアニメ新シリーズ『ルパン三世 PART5』でも、もちろんLupintic SixがBGM音楽の演奏を担当している。
さて、いよいよ開催が4月に迫り、期待が高まる『角川映画 シネマ・コンサート』だが、その音楽演奏を担当する「大野雄二と"SUKE-KIYO"オーケストラ」の正体とは果たして!? 発表されているメンバーを眺めるとLupintic Sixと共通点が多く、なじみの顔ぶれによる安定した演奏は約束されたようなものだが、何せ名前が「"SUKE-KIYO"オーケストラ」。松崎しげる、ダイアモンド☆ユカイの出演が既に告知されているが、それだけで済むはずがない。如何なる謎解きとどんでん返しを仮面の下に隠しているのか……。多くの映画ファン、サントラファン、大野雄二ファンが、その正体と対面し、2018年最新型の大野雄二サウンドに包まれるその日を待ち望んでいる。
角川映画 シネマ・コンサート
●日時
2018年4月13日(金)開場 18:00 / 開演 19:00
2018年4月14日(土)開場 13:00 / 開演 14:00
●会場
東京国際フォーラム ホールA
●料金
全席指定 ¥9,800(税込)※未就学児入場不可
●上演作品
「犬神家の一族」「人間の証明」「野性の証明」
※各映画の上映は全編上映ではございません。各映画のオリジナル映像を元に特別に編集されたハイライト映像に合わせて、生演奏の音楽でお楽しみ頂く、最新のライブ・エンタテインメント=シネマ・コンサート形式で上演致します。予めご了承ください。
●出演
・大野雄二と“SUKE-KIYO”オーケストラ
大野雄二(音楽監督・Piano,Keyboards) / 市原 康(Drums) / ミッチー長岡(Bass) / 松島啓之(Trumpet) / 鈴木央紹(Sax) / 和泉聡志(Guitar) / 宮川純(Organ) / 佐々木久美(Vocal、Chorus) / Lyn(Vocal、Chorus) / 佐々木詩織(Vocal, Chorus) / MiMi(Hammered Dulcimer) / 他
・ゲストボーカル:松崎しげる:「戦士の休息」歌唱決定! / ダイアモンド☆ユカイ:「人間の証明のテーマ」歌唱決定!
・スペシャル・トークゲスト:石坂浩二
≪著者略歴≫
不破了三(ふわ・りょうぞう):音楽ライター、CD企画・構成、音楽家インタビュー 、エレベーター奏法継承指弾きベーシスト。CD『水木一郎 レア・グルーヴ・トラックス』(日本コロムビア)選曲原案およびインタビューを担当。
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