2018年04月17日

“ふりだしに戻した”ポール・マッカートニーのソロ・アルバム『マッカートニー』

執筆者:藤本国彦

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世界的なバンドのメンバーが初めて一人でアルバムを出すときには、ふつうは一人でも十分にやっていけるところをみせようと思うはずだ。だが、ポール・マッカートニーは違った。


「イエスタデイ」や「ヘイ・ジュード」や「レット・イット・ビー」に匹敵する名曲はあるのか。「サムシング」のような“リード・ベース”は聴けるのか。「へルター・スケルター」や「オー!ダーリン」のようなシャウトは聴けるのか――。70年4月17日に発売されたポールの初ソロ・アルバム『マッカートニー』は、ザ・ビートルズ時代の名曲・名演を期待していたそんなファンに、思いっきり肩透かしを食らわせた。全14曲中、ヴォーカルのない曲が6曲もある。しかも、それらの多くが散漫な“一筆書き”の演奏で、聴くべきところもほとんどない。イギリスのメディアの酷評は、期待の裏返しでもあった。


『マッカートニー』の発売時期はちょうどビートルズの解散が決定的となっていた頃で、69年9月に脱退を表明していたジョンは、(まだ公にされてはいなかったものの)すでにグループを抜けていた。ジョンの脱退宣言にショックを受けたポールは、スコットランドの農場に引きこもってしまった。しかしリンダのおかげで“復活”を遂げたポールは、12月に自宅の農場に4トラックのマルチトラック・レコーダーを持ち込んでレコーディングを開始。翌70年2月にはロンドンのモーガン・スタジオとアビイ・ロード・スタジオで数曲を仕上げて、アルバムを完成させた。


すべての作業が終了した3月23日にポールはマスター・テープを自宅に持ち帰ったが、同じ日に、同じEMIの第4スタジオでフィル・スペクターが偶然にもザ・ビートルズのラスト・アルバム『レット・イット・ビー』のリミックス作業を行なっていた。そしてこの時期に、ポールの初ソロ・アルバムとザ・ビートルズの最後のオリジナル・アルバムのどちらを優先すべきか、発売に関して一悶着が起きた。ザ・ビートルズのマネージメントを担当していたアラン・クレインは、『レット・イット・ビー』を優先させ、『マッカートニー』の発売日を遅らせようとした。“ザ・ビートルズの代表”としてポールを説得するために自宅を訪れたのはリンゴだった。


「リンゴが会いに来たけど、『出て行け!』と言ったんだ。僕らは愛や平和を語っていたけど、実際は平和的な気分からはほど遠い状態だった」(ポール)


結局『マッカートニー』は、当初の予定どおり4月17日に発売された。見本盤には、プレス用として、ポールみずからまとめた質疑応答形式の資料が付いていた。そこにはこう書かれていた。


「ビートルズの活動休止の原因は、個人的、ビジネス上、および音楽的な意見の相違によるもの」「“レノン=マッカートニー”の共作活動が復活することはない」。


こうして4月10日にポール脱退のニュースが世界中をかけめぐり、ザ・ビートルズ解散は公になった。自分のアルバムの宣伝にザ・ビートルズの解散を使ったとジョンはポールのやり方を批判したが、ポールにはポールの考えがもちろんある。ポールは最初のソロ・アルバム制作時、「ふりだしに戻った」のではなく、「ふりだしに戻した」のだ。あえてゼロから始めた“勇気”。『マッカートニー』が、どこに向かうかわからない音楽的知的好奇心を詰め込んだ内容になったのは、リンダの支えも含めた勇気があったからこそ、でもあった。


『マッカートニー』はイギリス2位、アメリカ1位の大ヒットを記録。ポールがいまだにライヴで演奏し続けている「メイビー・アイム・アメイズド」や「エヴリナイト」「ジャンク」をはじめ名曲も多いが、すべての楽器を一人で演奏したポールのマルチ・プレイヤーとしての実力がいかんなく発揮されたアルバムとして、『マッカートニー』は宅録の名盤としていまだに高い評価を得続けている。


≪著者略歴≫

藤本国彦(ふじもと・くにひこ):ビートルズ・ストーリー編集長。91年に(株)音楽出版社に入社し、『CDジャーナル』編集部に所属(2011年に退社)。主な編著は『ビートルズ213曲全ガイド 増補改訂新版』『GET BACK...NAKED』『ビートル・アローン』『ビートルズ語辞典』など。映画『ザ・ビートルズ~EIGHT DAYS A WEEK』の字幕監修(ピーター・ホンマ氏と共同)をはじめザ・ ビートルズ関連作品の監修・編集・執筆も多数。

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