2017年08月23日

1963年8月23日、ビートルズの4枚目のシングル「シー・ラヴズ・ユー」がイギリスでリリース

執筆者:藤本国彦

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曲の出だしやアルバムの1曲目で聴き手を「アッ」と驚かせる。ビートルズにはそうした工夫や仕掛けが多い。カウントで始めたり、いきなり歌い出したり、SE(効果音)を入れてみたり、という具合にだ。


イギリスのオリジナル・シングルで見てみると、最初の2枚――「ラヴ・ミー・ドゥ」と「プリーズ・プリーズ・ミー」は特に目立った展開ではない。続く3枚目の「フロム・ミー・トゥ・ユー」も、コーラス始まりだが、それほど特徴的とは言えない。ビートルズならではの奇抜なアレンジがイントロから発揮されたのは、本稿の“主役”、63年8月23日に発売された4枚目のシングル「シー・ラヴズ・ユー」からである。


「ドロン、ドロン」。あるいは「ドドン、ドドン」。

ドラムの2連打で始まる斬新な展開が、一瞬にして耳を奪う。そしていきなりサビから歌い出すという意表をついた展開。さらにそこに“イェー、イェー、イェー”のコーラスがかぶさってくるのだ。いきなり本題に入る“ゴルゴ13”的なアレンジは、初期はプロデューサー、ジョージ・マーティンのアドバイスが大きかったはずだが、ただ叩けばいいというわけではない。このドラムの2連打をリンゴと同じようなニュアンスで再現するのは実に難しい。再録音されたビートルズのドイツ語版でさえ、ややつんのめった印象で、オリジナルの良さが出ていない。初期はまだジョン・レノンとポール・マッカートニーが二人で顔を突き合わせて書くことが多く、この曲も63年6月26日にツアーで立ち寄ったニュー・キャッスルのホテルで二人で書き、5日後の7月1日にレコーディングされたものだった。


この曲でもうひとつ目を見張るのは、3人称の視点で書いた歌詞だ。「アイ」ではなく「シー」。「人称代名詞にこだわったんだ」とポールが言うように、第三者の視点を取り入れたのはポールのアイデアだった。同じく、先に触れた“イェー、イェー、イェー”のコーラスもポールのアイデアだったようだが、“Yeah,yeah,yeah”はちょっと下品な言い回しで、イギリスでは“Yes,yes,yes”と言うのが普通だという。発音も、実際は“イェー、イェー、イェー”と“ヤァー、ヤァー、ヤァー”の間ぐらいじゃないかと思う。そうなると、初の主演映画の邦題に近づくわけだけれども。


イギリスでは予約だけで50万枚に達し、発売後半年で150万枚、その後合計166.7万枚を売り上げ、当時のイギリスでのシングル最高記録を打ち立てた。この記録を破ったのは、77年に(ポール率いる)ウイングスが発表した「夢の旅人」(曲はポールとデニー・レインの共作/219.3万枚)だった。イギリスでこんなに大ヒットしたヒット曲が、アメリカでは当時はマイナーなスワン・レーベルから発売されただけで全くヒットせず、である。5枚目のシングル「抱きしめたい」が全米1位となった後にようやく大手キャピトルから再発売され、64年3月に全米1位となり、250万枚以上も売り上げた。64年度の年間シングル・チャートでも「抱きしめたい」に次いで2位を記録している。


ちなみに、ビートルズを最初に意識的に聴いたのがこの「シー・ラヴズ・ユー」のシングルだったので、個人的にも愛着が深い。家にあった東芝音工の赤いドーナツ盤を耳にした瞬間の感動は、今でも忘れられない。ダンゴ状となった音の塊から耳に届いた電気音。「エレキ・ギターの音」を意識した最初の曲でもあった。


この曲には、こんなエピソードもある。

65年8月15日、ビートルズ初のスタジアム・コンサートとして当時観客動員記録を作ったシェイ・スタジアムが、老朽化のために取り壊されることになり、2008年7月18日に最終公演が行なわれることになった。主役はビリー・ジョエルである。そしてアンコールに、予定にはなかったポールが飛び入りで登場。「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」と「ピアノ・マン」で共演し大団円となった。

…と思いきや、ビリーがポールにもう1曲やろうと提案。それが「シー・ラヴズ・ユー」だった。「ハード・デイズ・ナイト」や「ぼくが泣く」をはじめ、ライヴでビートルズ・ナンバーを取り上げることの多いビリーは、「シー・ラヴズ・ユー」も好きでよく演奏していた。対してポールは「その曲は知らない」と言ったそうだ。「やりたくない」と即座に理解したビリーは、選曲をポールに委ねたというが、ポールと「シー・ラヴズ・ユー」の現在の“距離感”がわかって面白い。ポールが選んだのは、お馴染み「レット・イット・ビー」だった。

写真提供:中村俊夫

≪著者略歴≫

藤本国彦(ふじもと・くにひこ):ビートルズ・ストーリー編集長。91年に(株)音楽出版社に入社し、『CDジャーナル』編集部に所属(2011年に退社)。主な編著は『ビートルズ213曲全ガイド』『GET BACK...NAKED』『ビートル・アローン』『ビートルズ語辞典』など。映画『ザ・ビートルズ~EIGHT DAYS A WEEK』の字幕監修(ピーター・ホンマ氏と共同)をはじめビートルズ関連作品の監修・編集・執筆も多数。


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