2018年08月16日

80年代女子大生ブームとおかわりシスターズ

執筆者:鈴木啓之

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本日8月16日は“女子大生の日”である。1913(大正2)年8月16日、東北帝国大学(現・東北大学)が女子受験生3人の合格を発表し、日本で初めての女子大生が誕生したことに由来するという。それから時代を下ること70年、83年4月2日にフジテレビでスタートした深夜番組『オールナイトフジ』は、男子学生を中心に当時の若者たちに大いに支持されて土曜の夜のテレビ分布図を大きく変えることとなる。実はフジテレビでは過去にも同じタイトルの番組が放映されていたことがあった。69年から約2年間、系列のラジオ局、ニッポン放送の『オールナイトニッポン』のテレビ版として企画されたナイトショーで、司会者はラジオパーソナリティーとして活躍していた高崎一郎や、タレントのモコ・ビーバー・オリーブのほか、意外なことに舟木一夫の名前もあった。しかし80年代に甦った『オールナイトフジ』のコンセプトは全く異なり、番組の主役は現役女子大生たちとなる。もちろんプロのタレントがリカバーしながらも、素人感満載の彼女達によって進行される情報&バラエティ番組は新鮮な魅力でたちまち人気を博し、女子大生ブームを牽引したのだった。


当時のブームの背景には『オールナイトフジ』以前にも助走があり、81年10月にスタートした文化放送のラジオ番組『ミスDJリクエストパレード』で川島なお美や千倉真理が人気を得たことも大きかっただろう。さらに遡れば、前年の80年に熊本大学の現役女子大生だった宮崎美子が“いまの君はピカピカに光って~”でお馴染みのカメラ(=ミノルタX7)のCMで一躍スターとなったのが先駆けとおぼしい。そんな経緯があって始まった『オールナイトフジ』は女子大生ブームに拍車をかける決定的な存在となる。司会の片岡鶴太郎、レギュラーのとんねるずをはじめ、MCを担当したのは新進ジャズシンガーの秋本奈緒美と、モデルの鳥越マリ、それに毎回持ち回りの当番制で女子大生が加わった。慣れない進行で心配されたものの、そのたどたどしさが逆に番組の売りとなって人気が定着してゆく。冒頭に流される番組内容のロールテロップの最後、“終了時間未定”というのも画期的で、開放感に満ちた週末の夜に視聴者は心躍らせたものである。後には特番として企画された『オールナイトフジ 女子高生スペシャル』から発展して『夕やけニャンニャン』が生まれたことも重要事項で、現在のAKB48のルーツにあたるおニャン子クラブのさらに原型として、現在に連なるアイドルブームの起源になった番組といえる。


主たる視聴者であった同世代の男子たちはお気に入りの女子大生、今でいう推しメンを定めて毎回ブラウン管の前に鎮座した。そんな彼女達の中から、やがて人気メンバーが選抜されたユニットが誕生する。その先鋒となったのが、山崎美貴・松尾羽純・深谷智子による“おかわりシスターズ”だった。命名者は片岡鶴太郎。番組内で盛んに煽られた後、84年2月に「恋をアンコール」で遂に歌手デビューを果たす。フォーライフから出されたレコードは、おそらく番組スタッフや関係者の予想をはるかに上回るヒットであったろう。なにより楽曲の素晴らしさにファンは唸らされた。本気で作られたPVも好評で、続いて5月には片岡聖子・井上明子の“おあずけシスターズ”も「東京カンカン娘’84」でレコードデビュー。さらに同月にはオールナイターズのファースト・アルバム『チュッとセンセーション』もリリースされる。6月に出されたおかわりシスターズの第2弾シングル「心はシーズンオフ」も前作同様に峰岸未来の作詞、佐藤準の作・編曲による良質なポップスに仕上がっていた。8月8日によみうりランドEASTで開催された『オールナイトフジ・スペシャルライブ』では、満員の観客に松尾羽純が感極まって叫んだ「みんな、大好き!」がファンの間で伝説の名言となり、その後発売された写真集のタイトルにも掲げられている。9月に司会の秋本と鳥越が番組を卒業(鳥越は翌年に一時復帰)して、新MCに松本伊代と麻生祐未が抜擢される中、人気絶頂のおかわりシスターズは10月に第3弾シングル「素顔にキスして」をリリース。12月にはオールナイターズの2ndアルバム『キラッとジェネレーション』も出されて充実の一年であった。





85年3月にはオールナイターズの初期メンバーが全員卒業することとなり、おかわりシスターズの解散も発表される。ラスト・シングル「虹色のカノン」と、最初で最後のおかわりシスターズ名義の2枚組アルバム『L・A・S・T』をリリース。3月26日には東京厚生年金会館で「おかわりシスターズ さよならコンサート」が開催され、ステージも客席も涙に明け暮れた。『オールナイトフジ』は85年4月から新体制で装いも新たに再スタートし、その後も番組の顔となった松本伊代や、卒業後にMCへと昇格した山崎美貴をはじめ、様々な司会者へと受け継がれながら、91年3月30日の最終回まで、実に8年間に亘るロングランとなったのである。しかし初期から番組を見ていた同世代のファンにとっては、『オールナイトフジ』といえばやはりオールナイターズであり、おかわりシスターズなのだ。バブル前走期、煌びやかな時代の空気感が詰まった楽曲たちは今も決して色褪せていない。


おかわりシスターズ「恋をアンコール」「心はシーズンオフ」「素顔にキスして」「虹色のカノン」おあずけシスターズ「東京カンカン娘’84」ジャケット、恋をアンコール ステッカー撮影協力:鈴木啓之


≪著者略歴≫

鈴木啓之 (すずき・ひろゆき):アーカイヴァー。テレビ番組制作会社を経て、ライター&プロデュース業。主に昭和の音楽、テレビ、映画などについて執筆活動を手がける。著書に『東京レコード散歩』『王様のレコード』『昭和歌謡レコード大全』など。FMおだわら『ラジオ歌謡選抜』(毎週日曜23時~)に出演中。

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