2018年02月15日
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2018年02月15日
本日2月15日は、堀ちえみの誕生日。1967年生まれなので51歳を迎える。
堀ちえみは大阪府堺市の出身。1981年の第6回ホリプロタレントスカウトキャラバンに優勝し、翌82年3月21日、「潮風の少女」でキャニオン・レコード(現ポニーキャニオン)から歌手デビューを果たした。このデビュー年でもお分かりの通り、彼女は「花の82年組」と呼ばれる、新人歌手大豊作の年に登場してきたアイドルの1人。同期には小泉今日子、松本伊代、早見優、石川秀美、中森明菜、シブがき隊らがいる。
歌手としては順調に楽曲をリリース、同年の日本レコード大賞新人賞を獲得し、翌83年からはチャートのベストテン常連ともなる。同時に10月より始まった大映ドラマ『スチュワーデス物語』でスチュワーデス訓練生・松本千秋を演じ、教官役の風間杜夫とのやり取り、大映ドラマ特有のオーバーな芝居と奇想天外なストーリー展開とが相まって高視聴率を記録、「ドジでノロマな亀」「教官!」などのフレーズが大流行し、堀ちえみは一躍脚光を浴びることになる。彼女の苛められっ子的な被虐性のキャラクターはいささか古色蒼然たる大映ドラマの登場人物にぴったりで、その後も『スタア誕生』『花嫁衣裳は誰が着る』などに起用された。
こういった堀ちえみの、可愛いがいささかトロそうな魅力を前面に押し出したのは、実は『スチュワーデス物語』が最初ではなく、彼女のシングル第3弾「待ちぼうけ」で既にその片鱗がうかがえる。作詞・作曲は竹内まりやで、恋人との待ち合わせに40分も待っているのにまだ彼が来ない、という歌だが、最後は自分の時計が2時間進んでいた、というとてつもないオチの歌である。今ならツッコミどころ満点の歌詞だが、不思議と堀ちえみが歌うとそのほんわかとした魅力と合致して納得できてしまうのが面白い。この曲で彼女の歌手としての方向性も確立されたと言っていいだろう。
歌手・堀ちえみにとって最大の重要人物は、キャニオン・レコードの担当ディレクターであった渡辺有三である。ランチャーズのベーシストから裏方に転向した渡辺は、最初に担当したのがミノルフォンから移籍してきた山本リンダで、いきなり「どうにもとまらない」の大ヒットを飛ばした。その後も高木麻早、NSP、中島みゆき、尾崎亜美らフォーク、ニュー・ミュージック系アーティストを担当する傍ら、金井夕子、岩崎良美らアイドル・ポップスも手がけている。堀ちえみもその系譜にある1人で、彼女の音楽的な方向性や作家起用の傾向は、まさしく渡辺ディレクターの方針が色濃く反映されている。
堀ちえみの作家陣には、従来の歌謡曲、ことにアイドル・ポップスを支えてきた作詞家、作曲家よりも、むしろアイドルへの楽曲提供がそれほど多くないアーティストの名前が多い。デビュー曲「潮風の少女」の編曲と、続く「真夏の少女」の作編曲を手がけているのはギタリストの鈴木茂で、これは前年の岩崎良美での起用に続くもの 。5作目「さよならの物語」から3作続けて担当している岩里祐穂=岩里未央のコンビは、実は同一人物であり、シンガー・ソングライターいわさきゆうこのペンネーム。「未央」は元オレンジの三浦一年といわさきのユニット名義で、ともにこの「さよならの物語」が作家デビュー作である。また「さよなら~」と次の「夏色のダイアリー」では新進アレンジャーとして頭角を現し始めた鷺巣詩郎が編曲を手がけた。
8作目「夕暮れ気分」は、同じ渡辺ディレクター担当だったNSPの天野滋が作曲、さらに10作目「稲妻パラダイス」は「ザ・トップテン」でのサンダル飛ばし事件で有名になった曲だが、康珍化=林哲司の80年代を代表するヒット・メーカーの手によるものだ。
85年に入ると、サウンド的にもバラエティに富んだ作風がみられ、13作目の「リ・ボ・ン」は編曲の萩田光雄が面白がってGS調のアレンジに仕上げたものが採用となったという。堀ちえみ自身は渡辺のランチャーズ時代を彷彿させるギター・サウンドに惹かれたことを、CD-BOXのブックレットでコメントしている。14作目の「Deadend Street GIRL」は作詞にムーンライダーズの鈴木博文、作曲にシーナ&ロケッツの鮎川誠、編曲に鈴木茂という異色の組み合わせだが、これに続く「Wa・ショイ!」も再び鈴木博文が作詞、作編曲にやはりムーンライダーズの白井良明という布陣で、サンプリング音を取り入れた時代的にはかなり早い発想だったといえよう。また鈴木茂や萩田光雄、鈴木キサブロー、或いは「ジャックナイフの夏」で初の打ち込みアレンジを行った矢島賢率いるLight House Projectなど、ギター系の作曲者やアレンジャーを多く起用しているのも堀ちえみ作品の特徴と呼べる。渡辺ディレクターは先行する岩崎良美でも芳野藤丸、鈴木茂、チャーらを随所で起用しているので、渡辺氏の趣向でもあるのだろうが、おっとりしたキャラクターながらキラキラしたアイドルらしさが加わっているのは、他のアイドルと異なる作家陣の起用にあったのではないか。もちろん、結果として導き出される楽曲制作面での自由度の高さと、それを体現する堀ちえみのアイドル・シンガーとしての魅力が前提にあったことは言うまでもない。
堀ちえみは21作目となる「愛を今信じていたい」を発表した87年に一時引退するが、このラスト・シングルの作曲が「GET WILD」発売直前のTMNETWORKの小室哲哉で、彼女の引退を飾る曲を、と渡辺ディレクターが直々にオファーしたそうである。
堀ちえみは89年に芸能界に復帰、現在も女優・タレント業の傍ら、時折ライブ活動を行っており、昨年3月にはデビュー35周年記念ライブを品川ステラボールで開催した。
≪著者略歴≫
馬飼野元宏(まかいの・もとひろ):音楽ライター。月刊誌「映画秘宝」編集部に所属。主な守備範囲は歌謡曲と70~80年代邦楽全般。監修書に『日本のフォーク完全読本』、『昭和歌謡ポップス・アルバム・ガイド1959-1979』ほか共著多数。
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