2019年06月06日

1962年6月6日、ザ・ビートルズがEMIスタジオで初のスタジオ・セッションを行う

執筆者:藤本国彦

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1962年6月6日、ザ・ビートルズはEMI(アビイ・ロード)スタジオで初のスタジオ・セッションを行なった。あえて「セッション」と書いたのは、長年「オーディション」と言われていたこの日の演奏が、実はEMI傘下のパーロフォン・レーベルとの契約後の、最初の“オフィシャル・レコーディング”だということが、マーク・ルイソン著『ザ・ビートルズ史 誕生』で初めて明らかになったからだ。ジョージ・マーティンがビートルズを引き受けた背景には、彼のやむにやまれぬ「個人的事情」があったことも、その本で明らかになった。


ジョンやポールに限らず、当事者が言うことは、必ずしも正しいわけではない。誰だって記憶違いがあるし、思い出を美化したり、言えないことは心の奥底に閉じ込めたりするでしょ? 推測でモノを言うんじゃなく、関係者に聴くのが正しい――そう捉える「ビートルズ研究家」も世の中にはたくさんいるけれど、「想像」や「妄想」が楽しいのは、「ビートルズも人間だった」ということがわかるからだ。


話がちょっと横にそれたが、6月6日は、彼らが1月のデッカ・オーディションに落ち、マネージャーのブライアン・エプスタインの尽力でEMIと契約がようやくできたという、まさにこれから何が起こるかわからないという時期でもあった。


これも『全史』で明らかになったことだが、EMIとの契約が実現した背景には、ビートルズがオリジナル曲を持っていることにEMI傘下の音楽出版社アードモア&ビーチウッドのシド・コールマンが興味を示したことが大きかった。そして、コールマンを介して5月9日にエプスタインとマーティンの顔合わせが実現し、この6月のオフィシャル・セッションへと繋がっていくわけだ。


セッションにはジョン、ポール、ジョージとピート・ベストの4人で臨んだが、ジョージ・マーティンとの初顔合わせが実現したのも6月6日のことだった。とはいえ、マーティンは、最初からその場にいたわけではない。セッションはEMIの第2スタジオで夜の7時から10時に行なわれ、「べサメ・ムーチョ」「ラヴ・ミー・ドゥ」「P.S. アイ・ラヴ・ユー」「アスク・ミー・ホワイ」の4曲が収録された(すでにオリジナル曲が3曲演奏されているのは見逃せない)。


レコーディングは、ロン・リチャーズ(プロデューサー)とノーマン・スミス(エンジニア)の立ち会いで始まり、マーティンは途中からコントロール・ルームに入ったが、オリジナル曲には魅力を感じなかったそうだ。そのあたりが、公には最初のレコーディング・セッションと言われる62年9月4日、リンゴ加入後の「ラヴ・ミー・ドゥ」のセッションに、マーティンが他人(ミッチ・マレー)の曲「ハウ・ドゥ・ユー・ドゥ・イット」を推した一因であったのかもしれない。彼らと契約したアードモア&ビーチウッドも、当然、オリジナル曲をレコード化してもらったほうがいいに決まっている(マーティンが「ハウ・ドゥ・ユー・ドゥ・イット」をジェリー&ザ・ペースメイカーズに歌わせてイギリス1位のヒットになったのは、クソ意地、いや先見の明があったということだろう)。


マーティンがピートの腕前を評価せず、その後、ジョン、ポール、ジョージとすでに仲の良かったリンゴの加入へと「歴史」が動いていったことも、なんとも象徴的な出来事ではあった。


そして、マーティンと4人との初顔合わせの際に出たのが、「2人のジョージ」による、かの有名なやりとりだった。


「何か気に入らないことはあるかな」(マーティン)


「あなたのネクタイが気に入らないね」(ハリスン)

「THE SILVER BEATLES」ジャケット撮影協力:中村俊夫


≪著者略歴≫

藤本国彦(ふじもと・くにひこ):CDジャーナル元編集長。手がけた書籍は『ロック・クロニクル』シリーズ、『ビートルズ・ストーリー』シリーズほか多数、最新刊は『GET BACK… NAKED』(12月15日刊行予定)。映画『ザ・ビートルズ~EIGHT DAYS A WEEK』の字幕監修(ピーター・ホンマ氏と共同)をはじめビートルズ関連作品の監修・編集・執筆も多数。最新著作は『ビートルズはここで生まれた』。

プリーズ・プリーズ・ミー CD ザ・ビートルズ 形式: CD

ザ・ビートルズ史 上 単行本 – 2016/12/1 マーク・ルイソン (著), 吉野 由樹 (翻訳), 山川 真理 (翻訳), 松田 ようこ (翻訳)

ザ・ビートルズ史 下 単行本 – 2016/12/1 マーク・ルイソン (著), 吉野 由樹 (翻訳), 山川 真理 (翻訳), 松田 ようこ (翻訳)

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