2015年09月24日

[不定期連載]僕の髪が肩まで伸びて よしだたくろう!第6回 『元気です。』その1(序章)

執筆者:みうらじゅん

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みうらじゅんが勝手によしだたくろうを語る連載「ぼくの髪が肩まで伸びて たくろう!」。今回はいよいよ、よしだたくろう、3枚目のアルバム『元気です。』。1972年9月21日にリリースされたこのアルバムはオリコン週間チャート1位、年間チャートでも2位、という圧倒的売り上げを誇りました。まずははその序章から。


この『元気です。』はたぶん僕の人生の中で一番よく聴いたアルバムです。このアルバムが出た時は中学三年生の終わりあたり。まだものの分別がつくかどうかのギリギリの、心も体もまだプヨプヨの柔らかいころ、そこにこのアルバムがグッと入ってきた。もうすでに自分のアルバム(カセット)もかなり作り上げていましたが、これを聴いてから曲順や全体の構成までを考えるようになりました。「マジ / おもしろ/ マジ」みたいにね(笑)。「B面の一曲目にこれかまそう」とか考え出した(笑)。


前作の『人間なんて』は宝箱みたいなぐちゃぐちゃ感があったけど、このアルバムは一曲でも曲順違ったら『元気です。』にならないでしょ。プログレの組曲みたいな構成ですから(笑)。一曲目の「春だったね」から「せんこう花火」に続ところなんて俳句の世界でしょ。今はCDだから切れないけど、「たどり着いたらいつも雨降り」までのA面でガツンとポップスやって、B面一曲目の「高円寺」でまたブルージーなフォーク調にもどる。これがまた印象的です。

この「高円寺」を聴いて僕の上京は決まったようなものです。この曲聴いたから東京出てきて高円寺に住んで、今も中央線沿線に至るわけです。

これが、「霞が関」って曲だったら霞が関に住んでいたかもしれない(笑)。でも、高円寺なんですよね。吉祥寺でも下北沢でもない。今はある意味オシャレな街になってますが、この曲以前は高円寺には何もなかったのですから。


ジャケットの写真がまたいい。モノクロで荒い粒子の写真。同時期に出たエッセイ集『気ままな絵日記』にこのジャケット写真のアザーが入っています。きっとジャケット写真を撮るツアーをしたのじゃないでしょうか。能登半島の朝市のようなところでおばちゃんと触れ合ってみたり、金沢あたりか、駅で出会った修学旅行の生徒たちと写ってみたり、この頃、ディスカバー・ジャパンでフォークロアー的なところに行くのが流行ってましたから。その渦中で撮ったジャケット写真だと思われます。この世界観も一人で放浪しているフォークシンガーなんですね。ここによしだたくろうという人のイメージが確立されたのだと思います。『人間んなんて』のジャケットは住んでいたところ。その私生活を取り入れるというところからイメージの世界感に移行して行くんですね。


エッセイ集『気ままな絵日記』(立風書房)、カバーを外すと表紙はカラーで『元気です。』のアルバム・ジャケットのアザー写真のカラーだということが分かります。この本のジャケットのフォトセッションの中からレコードのジャケット写真を選んだのでしょうか。このことでもこの本とアルバムは連動していることがわかる。本来だったらこの本のタイトルも『元気です。』ですよね。でもそこに「気まま」という言葉がキャッチフレーズのようにある。よしだたくろうという人のイメージとして「気まま」という言葉は本当、しっくりきましたね。


『元気です。』のアルバムのインナーに入っていた「僕はやっぱり元気なのです」って手書きライナーノーツのような手紙、これがまた、いいんですよ。これはたくろうさんの字なのでしょうか。この時代のたくろうさんの書体に影響され、これがフォントになって、今でも僕の字体になってしまった。


この手紙、まるで歌詞のように書かれています。それがわざわざ緑色の紙に印刷されてレコードのインナーに挟まれるというやり口はそれまでになかった。これってとても個人的な内容ですからね。それまではライナーノーツって評論家の人が曲についてのデータを書くというものだったので、革命的で新鮮でした。

「結婚しようよ」の大ヒットにブーイングがあって、それに対して「帰れ!なんて言ってはいけないのです」っていうことなんだろうけど、そのことを歌にするのではなくてこういうエッセイ調の手紙にするというところに、当時の僕らにはたくろうさんから手紙が本当に来たような気がしてワクワクした。ファンはみんなそう思ったのではないでしょうか。

 

この時期『元気です。』とエッセイ集の『気ままな絵日記』はほぼ同時に出ている。どちらも72年の7月に出されていて、これぞメディアミックスの始まりですよね。このエッセイ読んで、このレコード聴いて、このインナーも読めるから世界観が全部わかるようになっている。イメージというものをとても大切にいろんなものが作られていった。


これまでのフォークの要素をメジャーに行って全部それを歌謡曲に取り込む、というような作業がこのアルバムなのかもしれないですね。

前作の『人間なんて』はブラスの曲もあって実験作で、その架け橋としてシングルの「結婚しようよ」がある。『人間なんて』に収録はされているけれど、シングルはCBSソニーから出ていて、ここでやっぱりたくろうさんは明らかに変わった気がした。今までとは何もかも違う。『人間なんて』までがそれまでのフォークのイメージ、「結婚しようよ」があり、そして『元気です。』では全く新たなナッシュビル・サウンドの世界になる。当時はもちろんそんな分析もできないししなかったけど、何かが新しくなったことには気づいていて、ワクワクしたんですよ、きっと。

(この項つづく)

写真提供:ソニー・ミュージックダイレクト

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みうらじゅん

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