2015年10月12日
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2015年10月12日
みうらじゅんが勝手によしだたくろうを語る不定期連載「ぼくの髪が肩まで伸びて よしだたくろう!」、今回はアルバム『元気です。』のA面をみうらじゅんが勝手に全曲解説いたします。
SIDE A
1 春だったね
もう一音目から僕には強烈でした。しかもたくろうさんの詞じゃなくて「春だったね」は女性の詞、田口淑子って誰だったんですかね。なんでしょっぱなの曲が他人の作詞なのか? でもこの詞はたくろうさんなんじゃないの? 今でも疑っています。で、田口淑子って架空の人だったりして。それほどいいです、この詞。曲はディランの「メンフィス・ブルース・アゲイン」風にこの詞。そこが堪らなくいい。
僕を忘れたころに君を忘れられないそんな僕の手紙が君につく・・・中学生にはかなり難解な詩だけど、当時は気にならなく、ストレートに頭に入って来た。この歌はその詞の内容から、多方面から感情移入できる稀有な存在なんです。曇りガラスの窓を「たたいてぇ」の歌い方、いいですよね。いやぁ、ポップスの名曲!
2 せんこう花火
これもスゴ過ぎ。またもたくろうさんの詞じゃない不思議。こちらは吉屋信子作詞とあった。今だったら彼女についてすぐウィキとかで調べるけど、そんなのは無い時代。知るすべもありませんでした。詞と曲が美しく融合していて、宮沢賢治のような世界。「死に忘れたトンボが一匹、石ころにつまずきました」。シュールなんだけどすんなり心に響く詞。いやぁ、ギターの音色も沁みました。
3 加川良の手紙
トーキング・ブルースってやつですかね、これは。詞の中の単語「ダーティハリー」も「ホワイトジーン」も時代を象徴していてね。加川良さんの手紙に見た時代やスタイル、気ままさがみんな入ってる。これも詞は他人ですから。ということはアルバム「元気です。」はA面の頭の3曲続けて意図的にされたということでしょうか。
僕も、たくろうさんを真似て、人からもらった手紙に勝手に曲をつけて、それを歌ってテープに録音して送り返していました(笑)。でも手紙をくれた人からはその後、一切返事ありませんでしたが(笑)。この手紙は加川良さんが彼女に出した手紙でしょ? でも聴いているとそこのところの経緯が曖昧模糊として、たくろうさんが書いた手紙のようにも感じるから不思議です。家で飲むコヒーは美味しくないって、確かに家で飲むインスタントコーヒーは昔はまずかったですからね。学割で映画観る、ということは彼女は学生で男の設定はやはりフォーク・シンガーなんでしょう。隣の田中さんは新婚で、朝ごはんのベーコンエッグは奥さんが作ってくれたんでしょう。情景が浮かんできます。
「おかげで僕は元気です。」これがそもそもアルバムタイトルですもんね。なぜ加川良さんに頼んだのでしょう。そこにたくろうさんとの仲の良さとセンスを感じます。「高田渡の手紙」ではちょっとイメージ違うでしょ(笑)。後に加川良さんが「よしだたくろうの手紙」歌ってくれたらまた、面白かったですよね。
4 親切
タイトルがいいですね。親切って題名なんてありえないですから革新的でした。砂嵐で歩きづらいってどこだろう? たくろうさんの親友シリーズの一貫。
友達のあり方についてたくろうさんはいつも中学生だった僕にレクチャーしてくれました。今、思うと精神的ゲイ的親友を語った歌なんじゃないかって(笑)。友達はまだディランの話をするけど、もう僕はそれは卒業した(変わった)って言いたい。変わりたい人(たくろうさん)と変わりたくない人(親友)、あの当時たくろうさんは進化したい自分と、ふるさとのような友達の間で悩まれていたのでは。
親切が逆に煩わしい・・・後に僕もそれが分かるようになってくるわけで。
5 夏休み
この歌は、ライブ・アルバムである『よしだたくろう オン・ステージ ともだち』にも入っていますね。唱歌「赤とんぼ」レベルのすごい歌です。一行一行でその景色が変わってゆく。コラージュされたいろいろな夏。
何と言ってもひっかかるキーワ-ドは「姉さん先生」でしょ。これは小学校時代のたくろうさんの思い出と言われていますが、姉さんに男はずっと憧れ続けるもんじゃないですか。僕はね、当時愛読してた石森章太郎の『漫画家入門』に載っていた『竜神沼』と『千の目先生』という漫画をいつも思い出します。「姉さん先生」、実はとても幻想的な夏休み。精神的なトリップ感があってグッときます。
6 馬
これはすごいでしょ。今までの流れガラッと変える「馬」って。1番は馬が走ってきて通過して去っていくまでの流れがまるで映画の1シーンように表現されてる。2番以降は馬が笑っちゃいますから(笑)。
このセンス、たくろうさんが作ったCMソング「ハブア・ナイスデー・ウォウウォウウォウウォウウォ~フジカラー」の感じがしますね。馬のCM、競馬のテーマソング? いやぁ、想像力を掻き立てる歌としては一番です。
7 たどりついたらいつも雨降り。
いきなりバンジョーで入ってくるところがグッときますよね。前曲「馬」からのつながり絶妙。「こころの中に傘をさして」が、強く入ってきます。
今までの曲の作り方とは明かに違う気がするんですが、第一サビも1回しかないでしょ。モップス・ヴァージョンはロック、たくろうさんはカントリーに歌い分けてアレンジしています。
「ところがオイラは・・・」って何ですかね? 打ち消してこんなに疲れて「ところが」というところが、たくろうさん冴えてますよね。この「ところが」がとにかく、全体にかかる。「けだるさ・・・」にも効いていますね。すでにあった曲をモップスの鈴木ヒロミツさんに合わせて、たくろうさんが作り替えたと聞いたことがあるんですが。当時からたくろうさんはモップスのあのサウンドとイメージに合わせて曲が書けたわけです。後の他の歌手に曲を作る第1号がこの曲。
たくろうさんは優れた、いわゆる職業作詞家でもあったと本当、感動します。「今日はとても穏やかに知らん顔している自分が見える」…なんてきれいなフレーズだろう。この歌は当然、僕の中のたくろうベスト10に入る曲。14歳でこの歌聴いた時はとても刺激的で、忘れられない名曲。童貞に響く最高傑作でした。
写真提供:ソニー・ミュージックダイレクト
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