2015年08月31日

[不定期連載]僕の髪が肩まで伸びて よしだたくろう!第5回 アルバム『人間なんて』その2 みうらじゅんによる勝手に全曲解説

執筆者:みうらじゅん

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よしだたくろうの2枚目のオリジナル・アルバムとなる『人間なんて』。大ヒット曲となった「結婚しようよ」収録のこのアルバムからブレイクしていく。前回から続いていよいよみうらじゅんによる全曲解説です。

全曲解説する前に、前回触れられなかったこのアルバムの凄さについて一言(前回はジャケ写が逆版・・・で盛り上がって終わってしまったけど・・・)。それは加藤和彦さんがディレクターで参加していることかもしれない。たくろうさんはあの歳(25歳)でフォーク界の大御所の心も掴んでしまわれたと読み取れる。でもジャケットのイメージは『青春の詩』の延長線上にあり、ディレクションは楽曲のみであったのでしょう。この年にあった第3回中津川フォークジャンボリーでたくろうさんが2時間ぶっ通しで「人間なんて」を歌って話題になっていたから、急遽アルバムタイトルを『人間なんて』にしたのでしょうが、本来このアルバムのタイトルは『結婚しようよ』が相応しかったんじゃないでしょうかね。


1曲目「人間なんて」

「人間なんてラララ、ラララ、ラーラ」この歌詞がとにかく凄い! だって、「ムムム」でも「ルルル」でもいいわけでしょ。だって固いテーマじゃない、人間なんてって。そこを弾むカタカナの「ラララ」にしたことで、意味深なたくろうさんの世界観を強烈にアピールしていますよね。これはスタジオ録音のショート・バージョンだけど、ギターのキレが物凄くいい。童貞高校生に「お前たちできないだろ!」って、手の届かないギブソンのギターと完璧なチューニングと新品の弦とプロのギターテクを見せつけられちまったって愕然としました。Bm必死に押さえてシャウトして、まさに拓郎節だった。ライブとは少し変えて抑え気味で歌われていますね。


2曲目「結婚しようよ」

『ナッシュビル・スカイライン』のころのボブ・ディランのサウンドを彷彿させる、カントリー・フレバーの「結婚しようよ」が、その後シングル・カットされて(シングルのほうは)ソニー(当時はCBSソニー)からリリース、あっという間に大ヒットになってしまう。実は僕、この影響で後にバンジョー買ってもらいました(笑)。この歌詞、雑誌『詩とメルヘン』のようで「もうすぐ春がペンキを肩にお花畑の中を散歩に来るよ!」ってこれフォークの歌詞じゃない。たくろうさんってリアリティをファンシーで包んで、他のフォークシンガーが外に向かってメッセージを発信しているときに、自分に向かって歌っている気がしましたね。僕の髪が肩まで伸びて君と同じになったら・・・この半年後に実際に軽井沢の教会(白いチャペル)で結婚されるわけですから。ジョン・レノンがアルバム『イマジン』の中で妻歌「Oh Yoko!」発表してるけどたくろうさんの方が公私混同楽曲は先なんですよね(笑)。


3曲目「ある雨の日の情景」

当時、たくろうさんは「美しいハーモニーをお聴かせいたします」っておっしゃってこの曲を演奏してたと記憶しています。

前奏のギター演奏、イカしてる。練習したけど弾けなかった・・・。悔しさからこのギターってたくろうさんが弾いているんですかねと疑いました(笑)。 3曲目で急に女性作詞の歌が入るからリスナーとしてはとても戸惑った覚えがあり。作詞の女性(伊庭啓子さん)を勝手に想像して聴いていました。どんな方だったんですかね?


4曲目「わしらのフォーク村」

この曲もまたまたカントリー調。アルバム『人間なんて』は基本、カントリー・アルバムだったんですね。この曲では松任谷正隆さんがバンジョー弾いてたんだって後で知りました。でもこの曲のいいのは、何といっても「わしら」ってとこ。ボクらではなく、わしらって体育会系のニオイがして、それでも上下でもなく、平等な関係なんだよね。メインボーカルとバックバンドの関係じゃない、リーダーが居るわけでもない、すべての事柄が並列に進んでいくたくろうさん的人間関係が「わしら」じゃないかなと思いました。これは広島の方言でもあるけど、僕はこれ聴いて以降ずっと「わしら」という人間関係にとても憧れて続けています。


5曲目「自殺の詩」

タイトルと曲にギャップがあり過ぎ。そこがいいんですよね。サビでハモるところがたくろうさん的。これはディランにはやれないことですね(笑)。このハモリはある意味ビートルズ的だと思いました。当時「自殺」って言葉、高校生の自分にはとても響きました。たくろうさんの歌って、ローリング30sまでずっと高校生の気持ちを失っていない。僕にとって「たくろう高校4大詩」となると、 1.青春の詩 2.イメージの詩 3.自殺の歌 4.こうき心・・・なんです。


6曲目「花嫁になる君に」

このスリーフィンガーっていうギター奏法は、弾いていると途中で指が痙攣したり、途中で何が何だかわからなくなるんだよね(笑)。アルペジオが弾けるようになったら次の難関がコレ。詞は岡本おさみさんだけど、この曲はメロディと詞が合った本当に素晴らしい曲だよね。しかも自分に向けて、あるいは恋人単体に向けて歌ってる。一切外に向かっていないよしだたくろうの世界がこの『人間なんて』というアルバムのテーマのように感じます。もちろん「花嫁になる君に」はその筆頭。こういう曲ってたくろうさん以外が歌ってもだめ。代役が居ないんですよ。独自のパーソナリティをガンガン開花されている時代だったんですね。


7曲目「たくろうチャン」

すぐにエンケンさん(遠藤賢司)のブルースハープと分かる、最高にカッコイイ、しかも究極の自己PRソング! 当然、たくろうさんしか歌えない「たくろうチャン」。今でもこの曲聴くと鳥肌が立つ。外国のミュージシャンは平気でこういう曲作る人いるけど日本では初めてじゃないの? 後に「伊代はまだ16だから」があるけど(笑)。でもねLIVEでこの曲やるときは「かっこいいだろ? どこかのボンボンみたいなフガァー」て歌われてるんだよ(笑)。いいなぁ、こういうとこも。


8曲目「どうしてこんなに悲しいんだろう」

B面の1曲目。出た!拓郎節爆発。松任谷正隆さんの最初のアレンジはプロコルハルム的だね。このアルバムってやっぱスタッフも凄い。歌詞も1枚目のシングル『イメージの詩』からずっとひきずっている「孤独を寂しがりやと勘違い」という永遠のテーマをこの曲で「虚しさ」へ昇華させてくれて、「やっぱり僕は人に揉まれてみんなの中で生きる」という、自分へのメッセージを見ることができる。こうしてファンは自分に言われてるんじゃないかと思いどんどんたくろうさんにはまっていったんだよね。


9曲目「笑えさとりし人ヨ」

ブラス(管楽器)が入りました。ディランの「雨の日の女」風。たくろうさん、満を持してやってる気がします。このノリ。僕の『青春ノイローゼ』って病気は完全にたくろうさんからもらった病気だということが分かります。


10曲目「やっと気づいて」

たくろうさんのシャウトはブルースで聞かせるには最高の声質なんです。「両手でこぼれない程の小さな自由らしいもの」大人が分からない尺度・大人が困ってしまう考え・大人になりたくない反発に気づいた時が青春ノイローゼです。今聴いてもとても心に沁みるのはまだ、その病気が完治していないせいでしょう。


11曲目「川の流れの如く」

ボブ・ディランの「川の流れを見つめて」とオーバーラップ。実は難解なディランの歌詞よりずっと心に届くんですよね。僕は結局、たくろうさんのフィルターを通してその後もディランを聴いてきたんです。


12曲目「ふるさと」

各フレーズの締めが「そして自分を愛して」「そして自分が好きさ」「そして自分を信じて」って、育った所でもあり嫌ったこともあったけど結局、自分自身のことなんですよね。

よしだたくろう

みうらじゅん

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