2017年08月08日
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2017年08月08日
アヴァンギャルドな映像作家・松本俊夫が監督したATG映画『薔薇の葬列』の主役に抜擢されて注目を浴び、映画の公開翌月に出されたデビュー曲「夜と朝のあいだに」をヒットさせる。一躍、時代の寵児となったピーターが世に出た1969年は、音楽や文化も成熟してという混沌とした時代であった。その妖艶な佇まいは元祖・ビジュアル系ともいえそうだ。現在では本名の池畑慎之介と、ふたつの名前を使い分けているピーターは8月8日生まれ。常に年齢も性別も超越した存在ながら、65歳の誕生日を迎えた。
父親が地唄舞吉村流の家元で、後に人間国宝となる吉村雄輝という、伝統芸能の家に長男として生まれ育った池畑慎之介は、その反発から家出して上京し、ゴーゴー・クラブで働き始める。そこで彼の中性的な魅力が評判となり、男の子のような、女の子のような、性別不在のピーター・パンのような子ということから“ピーター”の愛称で呼ばれる様になった。その頃、作家・水上勉のパーティーで舞台美術の朝倉摂の目に留まり、映画『薔薇の葬列』の主役に抜擢される。1960年代末の新宿を舞台に繰り広げられる作品の主演であるゲイボーイ役がなかなか見つからずにいたところで、監督の松本俊夫は会ってすぐ出演を決め、全く演技の経験もなかった新人に突如白羽の矢が立てられたのだった。小松方正や土屋嘉男以外はほぼ新人キャストで固められた作品ながら、秋山庄太郎、淀川長治、篠田正浩ら当時活躍していた文化人が多数出演しており、当時の新宿の風俗と併せて貴重な記録といえる。その中で未知の輝きを示していたピーターの存在感は絶大であった。
1969年10月に出されたデビュー曲「夜と朝のあいだに」は、全編に耽美的な雰囲気が漂い、何よりピーターの個性的な歌声が聴く者を惹きつける。作詞はシャンソンの世界から転身して人気作詞家となっていたなかにし礼で、詞を依頼された氏は、ピーターの特徴的なパーソナルからこのタイトルを思いついたという。「夜」とは女性、「朝」は男性の隠喩であり、夜から朝へと移行する時間の経過に二つの性の中間を重ねて描いたコンセプトは見事というしかない。村井邦彦による格調高きメロディー、馬飼野俊一のジャジーなアレンジもピタリと嵌って大ヒットとなり、ピーターはこの年の日本レコード大賞で最優秀新人賞を獲得するに至る。その後歌手活動のペースは少し緩やかになりながらも、1970年代はほぼ毎年新曲をリリースしていた。「悪の華」「人間狩り」「殺したいほど好き」といった、タイトルからしても実に退廃的な問題作の数々。ピーターか美川憲一あたりでなければ歌えなさそうなアクの強いナンバーが並んでいる。多くの作詞を務めたなかにし礼をはじめ、作曲も宮川泰、川口真、筒美京平、馬飼野康二ら、錚々たる作家陣が作品を提供している。当時は新興メーカーだったCBS・ソニーで、後に南沙織や郷ひろみを世に送り出す酒井政利ディレクターが担当したことも、歌手・ピーターにとっての幸運であったといえるだろう。
1980年代半ば頃より、バラエティなどタレント業の時はピーター、俳優としては池畑慎之介と、ふたつの名前を使い分けるようになる。そのきっかけは1985年に公開された、黒澤明監督『乱』への出演であったという。狂阿彌という、物語の語り部ともいえる道化の役が高く評価され、以降、芝居に対する真摯な取り組みの意思表示として、本名も使い始めた。役者の代表作のひとつに、近年では、舞台『越路吹雪物語』で越路吹雪の役を演じたのが印象深い。マネージャーかつ親友として公私ともに越路を支えた岩谷時子役の高畑淳子との息もピッタリで、2003年から5年に亘り、通算148公演が催されて好評を博した。
1980年代に入ってしばらく途絶えていた歌手活動だが、1987年に久々のリリースとなったのが、田代まさしとともに“慎之介&マーシー”名義で出した「パラディラタンの夜は更けて」という異色作である。おニャン子クラブなどでヒットを連発していた秋元康の作詞、シャネルズ~ラッツ&スターの曲を手がけてきた井上大輔の作曲という鉄壁の布陣。ムード歌謡とニューウェイヴが合体した様な他に類を見ない一曲で、ボサノヴァ調のカップリング曲「再会」とともに、ノヴェルティソングとしては極めてクオリティの高い作品であった。その後の諸事情により封印されてしまっているのが少々惜しまれる。
≪著者略歴≫
鈴木啓之 (すずき・ひろゆき):アーカイヴァー。テレビ番組制作会社を経て、ライター&プロデュース業。主に昭和の音楽、テレビ、映画などについて執筆活動を手がける。著書に『東京レコード散歩』『王様のレコード』『昭和歌謡レコード大全』など。FMおだわら『ラジオ歌謡選抜』(毎週日曜23時~)に出演中。
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