2018年03月30日

1970年3月30日、人気絶頂の藤圭子がオリコンのシングル、アルバム両チャートで1位を獲得

執筆者:馬飼野元宏

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宿命を背負った演歌の星。そんなイメージで60年代終盤、鮮烈に登場してきた藤圭子。そのデビュー時は、衝撃的なものであった。1970年3月30日はシングル2作目となる「女のブルース」がオリコン・シングル・チャートで1位を獲得した日でもあり、また同時にファースト・アルバム『新宿の女/演歌の星 藤圭子のすべて』もオリコン・アルバム・チャートで1位を獲得している。


藤圭子は1951年7月5日生まれ。浪曲歌手の父と三味線瞽女の母の門付に同行し、旅回りの生活を送り、15歳で北海道岩見沢の歌謡ステージで歌う姿を見た作曲家の八洲秀章にスカウトされ上京。69年9月25日に「新宿の女」でレコード・デビューを果たす。


夜の世界に生きる女性を歌ったそのディープで怨念を込めた歌の世界は、プロデュースも兼任していた作詞家・石坂まさをのイメージ作りによるところが大きい。作家の五木寛之が彼女の歌を「怨歌」と名付けたとか、70年安保の暗い世相にその情念的な歌世界がマッチしたとか、そういった藤圭子にまつわるエピソードの数々は、ここでは触れずにおきたい。

一方で藤がGSのオリーブの追っかけをやっていて、先にブレイクした藤が、低迷していたオリーブを自身のレコード会社に呼び寄せた、というエピソードのほうに、まだ19才だった少女らしさを感じさせるのは筆者だけではないだろう。


また、実際に藤圭子自身も、その日本人形のような美貌から、アイドル的な人気を集めていたことも確かである。TVアニメ『さすらいの太陽』の、流しの歌手で下積みを続けるヒロインの少女のモデルになったことは有名だが、楳図かずおの名作漫画「おろち」のヒロインもまた藤圭子をモデルにしているという噂があり、実際に当時の『少年サンデー』の「スターとまんが主人公そっくりショー」という企画ページで、藤圭子本人がおろちを演じているのである。雑誌グラビアでは水着姿を披露したりもしている。歌のイメージは暗かったが、当人はそれほど暗いキャラではないのだろうし、また時代的にも「暗さ」が人気のマイナスになることはなかった。


では、藤圭子の何が凄かったのか。それは、可憐な美貌に反して、ドスの利いたハスキーボイスで放たれる、ディープな情念を表現した歌の世界に他ならない。怨念と諦念に満ちた歌の世界という意味では、代表作となった3作目の「圭子の夢は夜ひらく」に集約されており、むしろドスの利いた彼女のヴォーカルが、あまりにもソウルフルで、聴く者を圧倒していたというのが正解ではないだろうか。


デビュー曲「新宿の女」はそれでもいくらか明るさと健気さを感じさせる詞とメロディーであったものの、この「女のブルース」は作曲に猪俣公章を迎え、よりディープなネオン演歌、それも怨念と諦念とやさぐれ感に満ちた歌の世界に突き進んでいる。これがさらなる深みを極めたのが「圭子の夢は夜ひらく」だったのだ。わずか1年足らずで、藤圭子は巨大な熱量を持って、日本の音楽シーンを自身の色に染めてしまったのである。


冒頭に記したオリコン・チャートの記録であるが、まずシングル「女のブルース」とアルバム『新宿の女』が同時1位を獲得したのが3月30日。「女のブルース」は5月18日まで8週連続で1位を独走したが、この曲を1位から引きずり下ろしたのが、同じく藤圭子の第3弾「圭子の夢は夜ひらく」だった。こちらは10週連続1位を獲得し、つまり70年の4月から7月までは、藤圭子が18週連続で1位を独占していたのである。


それ以上に伝説的な記録となったのが、この70年3月30日にアルバム・チャートでトップに立った『新宿の女/演歌の星 藤圭子のすべて』で、こちらは20週間に渡り1位を独占。そして、21週目にこのアルバムを首位から引きずり下ろしたのは、同じ藤圭子のセカンド・アルバム『女のブルース』だったのだ。実に71年1月11日まで、42週間も連続でアルバム・チャート1位を独占。これはオリコン・チャートの開始以来、現在に至るまで破られていない大記録である。ちなみに実娘の宇多田ヒカルが99年にリリースしたファースト・アルバム『First Love』もまた、オリコン・アルバム・チャートの歴代1位というセールス記録を保持している。母娘二代に渡って日本の音楽シーンを席巻した、まさしく天才の血筋としか言いようがない。




藤圭子絶頂期の歌唱がいかに凄かったかは、この1970年10月23日に渋谷公会堂で行われたリサイタルの模様を収録した『歌い継がれて25年 藤圭子演歌を歌う』というライヴ・アルバムにその凄まじい迫力が収録されている。持ち歌は2曲のみで、それ以外は戦後歌謡史を1人で歌い継いでいくといった構成のアルバムだが、暗い情念演歌の人、というイメージを一新するほどのリズム感の良さ、楽曲の理解力・咀嚼力の高さと、自己の中に受け入れて独自の表現を放っていく様が圧倒的なのだ。「銀座カンカン娘」にみる抜群のリズム解釈、「アカシアの雨がやむとき」の退廃感、まさに天才である。圧巻はアマチュア時代から得意だったという畠山みどりの「出世街道」で、この分厚い声、ど真ん中直球の絶唱は凄すぎて言葉も出ない。2枚組のアルバムを通して聴くと、情念とか暗さとか、そういった側面だけでは片付けられない、シンガー藤圭子の天才性に気づかされるのだ。

「新宿の女」「圭子の夢は夜ひらく」「女のブルース」写真提供:ソニー・ミュージックダイレクト

ソニーミュージック 藤圭子公式サイトはこちら>


≪著者略歴≫

馬飼野元宏(まかいの・もとひろ):音楽ライター。月刊誌「映画秘宝」編集部に所属。主な守備範囲は歌謡曲と70~80年代邦楽全般。監修書に『日本のフォーク完全読本』、『昭和歌謡ポップス・アルバム・ガイド1959-1979』ほか共著多数。

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