2017年12月29日
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2017年12月29日
本日12月29日は、今もなお個性派女優として存在感を振り撒き続ける岸本加世子の誕生日。もう57歳を迎える。
またも手前味噌の話でスタートとなるが、筆者監修により5月にリリースした『コロムビア・ガールズ伝説 SECOND GENERATION』の最終曲として、80年代アイドル文化のレクイエムのような形で配置したのは、国実百合の歌う「そばにいて下さい」だ。相本久美子が80年のアルバム『夢なのに…I Love You』で発表した自作詞による曲に目をつけるとはと、発売当時から吃驚させられたものだが、この曲が初出となったミニアルバム『北風と太陽』に収録されたのは、いずれも90年当時のJ-popのスタンダードからするとアナクロ過ぎとも思える、かつてのアイドル歌謡のカヴァーだった。そんな中の一曲に、今回の主役・岸本加世子のデビュー曲「北風よ」も含まれていた。この選択には唸らされたものだ。何せ、当時の自分の記憶からはほぼ消えかけていた故。
『時間ですよ』『寺内貫太郎一家』のアップデート版というべき、久世光彦演出によるファミリードラマ『ムー』のマスコット的存在として、1977年鮮烈にデビューした岸本加世子。同年公開された大林宣彦監督によるファンタジー映画『ハウス』の主演女優達や、ポテトチップスのCMで不思議娘ぶりをアピールした藤谷美和子とともに、この時期に台頭した新世代アイドルを代表する一人となった。そんな彼女を歌謡界が放っておくわけがない。『ムー』の音楽監督をも務めた鬼才・荒木一郎渾身の書き下ろし作品「北風よ」は、同ドラマの劇中歌という重要なポジションに位置付けられ、放映開始から2か月経過後の7月10日にデビュー曲としてリリースされた。岡田奈々・木之内みどりを筆頭に慎重にアイドルを育成していたNAVレーベルからは、「まちぶせ」の三木聖子以来久々の女性新人の登場となった。ピンク・レディーが派手な風を吹かせまくっていた当時の歌謡界に於いては、さすがに「赤い風船」の奇跡再びというわけにいかず、オリコンチャートでの最高順位は38位に留まったが、大場久美子でさえTOP40の壁を破れなかったのだから大した健闘ぶりである。歌唱技量的にはクーミンとどっこいどっこいながら、その特性を生かした曲作りはさすがに荒木の本領発揮。なおかつ他のアイドルが歌っても決して魅力を損なわないほど、曲の完成度が高いのだ。
9月には勢いに乗って初のアルバム『北風よ』をリリース。A面は荒木一郎作品で統一し、B面にはコンセプチュアルな組曲仕立ての「私小説」をフィーチャー、久世ドラマの名作「悪魔のようなあいつ」でおなじみ「ママリンゴの唄」まで歌うサービスぶり。ただ、大場久美子のアルバム群に比べると遥かに見つけにくい。09年になってひっそりCD化されているのだが。
その後、NAVからシングルが2枚リリースされているが、どちらも曲者であり、チャートに入らなかった分レア度も高い。2枚目のシングル「裸の花嫁」(77年11月)は、明らかにシャングリラス「家へは帰れない」(66年)を下敷きとしたドラマティック歌謡。作詞者はかつて江美早苗として知られ、のちに悲劇的な死に見舞われる中里綴である。蛇足だが「家へは帰れない」そのものも82年に当時人気絶頂だったミスDJ・千倉真理によるカヴァーが残されており、こちらもカルト度が半端ではない(杉真理をコーラスアレンジに起用したことで、ナイアガラ要素も若干注入されているが)。
さらに凄いのが約2年半の間を置いてリリースされた「あゝ落ちるPart I」である。80年3月放映開始されたドラマ『真夜中のヒーロー』のオープニングに使われたことで、カルトステータスが助長されたこの曲だが、一言で要約すると「実験作」に尽きる。アクトレスとしてのやる気が、正気の壁の向こう側まで突き抜けた異色作。シングルA面に起用されただけでも凄いのに、B面が「Part II」なのだから、余計恐ろしい。
女優活動が乗りに乗る一方でレコード活動は打ち止めと思いきや、83年にVAPから4枚目のシングル「心が…」で復活。大人の魅力で迫ると思いきや、アイドル時代の名残が残る歌唱が安堵感を感じさせる一曲。驚くべきことに「北風よ」を凌ぐ、オリコン33位に達するヒットを記録している。このヒットと前後して、再び久世ドラマ『刑事ヨロシク』に出演。後に強固なコネクションを築くことになる北野武との結び付きはここから始まっている。
大女優の初々しい息吹を伝える若き日のレコード活動が「黒歴史」として葬り去られることがないよう、語り継ぐ義務もこのコラムの重要な役目。発掘に値する貴重なレコードは、まだまだ眠っているに違いない。
≪著者略歴≫
丸芽志悟 (まるめ・しご) : 不毛な青春時代〜レコード会社勤務を経て、ネットを拠点とする「好き者」として音楽啓蒙活動を開始。『アングラ・カーニバル』『60sビート・ガールズ・コレクション』(共にテイチク)等再発CDの共同監修、ライヴ及びDJイベントの主催をFine Vacation Company名義で手がける。近年は即興演奏を軸とした自由形態バンドRacco-1000を率い活動、フルートなどを担当。 5月3タイトルが発売された初監修コンピレーションアルバム『コロムビア・ガールズ伝説』の続編として、新たに2タイトルが10月25日発売された。
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