2018年05月08日

本日は榊原郁恵の誕生日。“夏のお嬢さん”も59歳となる

執筆者:丸芽志悟

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本日5月8日は、榊原郁恵の誕生日。還暦まであと1年というのが信じられない、親しみやすいキャラは今もなお健在。模範的アイドルとして、日本芸能史に燦然と残しておきたい一人だ。


アイドルからの脱皮の手段として取り組んだミュージカル「ピーター・パン」(のちにホリプロの後輩たちが通る試練の門となる)や、1987年に渡辺徹と結婚した後の多岐に渡る活動により、模範的存在というイメージがさらに一人歩きしたものの、筆者の世代としてはその名前を聞くたび、甘酸っぱい気分を喉の奥に感じる。昨年監修させて頂いたコンピレーション『コロムビア・ガールズ伝説 FIRST GENERATION』の解説文の彼女の項に、「彼女に "はち切れんばかりの" という言葉の意味を教えられた方も多いのではと思われる」と書いた通りであり、それ以上の具体的説明をするのには未だに勇気が要るのだ。読者層が未成年にまで及ぶまんが雑誌や、学研や小学館が出していた小・中学生向けの学習雑誌に至るまで、Tシャツやショートパンツ姿で元気を振りまく郁恵の姿がグラビアを飾っていた時代。セクシーダイナマイトなんていう概念を知る前に、それらのグラビアで初めての発芽を覚えた青い少年達。筆者もその一人だった。山口百恵がすでに「神聖な存在」になりつつあった頃、彼女は庶民派アイドルの一人としてシーンに現れた。健康的な少女フェロモンは、彼女の数多い魅力の中では氷山の一角でしかないのだ。


そんな彼女を歌謡界に送り込んだのは、今やタレント発掘オーディションの代表的存在の一つとして認知されている「ホリプロタレントスカウトキャラバン」(以下「TSC」とする)。その第1回大会である。1976年のことだ。

従来「スター誕生!」を筆頭に、主にテレビの力によって育まれてきたスター発掘システム。その一角として、山口百恵、森昌子、片平なぎさらを見出し育成してきたホリプロが、そのノウハウで自ら開催に乗り出したのが「TSC」だった。GS時代に至る遥か前からスウィング・ウエストを率い、日本のロックの基礎を築いたミュージシャンであり、米国のスターシステムを見習うことで従来の芸能界と一線を画した事務所運営を行っていた堀威夫代表が、急成長するアイドル業界に挑戦状を叩きつけたわけである。タレントオーディションなのに、イメージソングまで用意するという念の入れよう。76年6月にリリースされた、池田ひろ子の3枚目のシングル「友達から恋人に」がその曲である。ホリプロの弟分と言っても過言ではないスパイダクション出身の松崎由治(元ザ・テンプターズ)が手がけたその曲は、デビュー歌手第1号となった郁恵のファーストアルバムで、当然のようにリメイクされている。蛇足ながら、米国で82年にヒットしたザ・ウェイトレシズの「男の子たちの好きなもの知ってるわ」("I Know What Boys Like")のイントロがこの曲のそれに瓜二つなのだが、レコードマニアとして知られる作者のクリス・バトラーは果たして知っていたのであろうか?


ともあれ、のちに堀ちえみ、山瀬まみ、鈴木保奈美、深田恭子、石原さとみ等、錚々たるメンツを芸能界に送り込み、その成功によりスター発掘システムの仕組みをすっかり変革しつつ、今もなお続く「TSC」が誇るタレント第1号こそ、77年1月1日に「私の先生」でデビューした榊原郁恵なのだ。そのジャケットには、しっかり「ホリプロタレントスカウトキャラバン優勝者」の文字が躍っていた。

最初はスロースターターだった。「TSC」自体の知名度が未だ高まっていなかったのもあってか、その売り文句も功を奏さず、オリコンチャートでは最高55位という結果に。それにしても、くすぐったい楽曲だ。「ブルー・シャトウ」のコンビで気合い入れて作ったのに、特に橋本淳による歌詞は乙女の甘酸っぱさをストレートに出し過ぎていて、耳にこそばゆい(これが阿久悠であれば、目黒ひとみ「家庭教師」のようにもっと大胆な方向に舵を切るのだ)。そんな楽曲で何度も聴ける郁恵の「か」という文字の発声は、そんな歌詞以上に耳をくすぐる、恥じらいの直接的な音像化だ。

4枚目のシングル「アル・パシーノ+アラン・ドロン<あなた」(ここまでタイトルに個人名を出せるとは、実に大らかな時代だった)あたりから、テレビへの露出も増え始め、オリコン30位以内を着実に狙える存在となる。そしていよいよ78年、7枚目に切り札となる楽曲「夏のお嬢さん」を世に放つのだが、この曲に関して書き始めると字数を相当使いそうなので、発売記念日である7月1日に再びチャンスを頂ける事を願いたいものだ。



惜しくもオリコン11位と、ベスト10入りを逃した「夏のお嬢さん」を超える実績を残すことができなかったが、印象的な楽曲は他にもまだまだある。今なら単刀直入すぎるタイトルについつい尻込みしてしまいそうな次作「Do It BANG BANG」も、15位まで達しているし、80年リリースした17枚目のシングル「ROBOT」は、テクノ歌謡の応用作として未だに人気がある。関西のオルタナティヴ・ロック・シーンを牽引した「ロックマガジン」の阿木譲氏さえ、当時メジャーレーベルに青田買いされていたニューウェイヴバンドより、この曲の方がずっと面白いというような発言をしていた覚えがある。もちろん、さまざまな楽曲に取り組むことにより、郁恵の表現力は格段と増していき、ミュージカルにも果敢に取り組むタフさを身につけたのは言うまでもない。ここまでの巨星が芸能界にもたらされる時代がまた来ればいいのにと、今も彼女の歌を聴きながらつくづく思う。アイスクリームでも頬張りつつ。



榊原郁恵「アル・パシーノ+アラン・ドロン<あなた」「夏のお嬢さん」「Do It BANG BANG」「ROBOT」ジャケット撮影協力:鈴木啓之


≪著者略歴≫

丸芽志悟 (まるめ・しご) : 不毛な青春時代〜レコード会社勤務を経て、ネットを拠点とする「好き者」として音楽啓蒙活動を開始。『アングラ・カーニバル』『60sビート・ガールズ・コレクション』(共にテイチク)等再発CDの共同監修、ライヴ及びDJイベントの主催をFine Vacation Company名義で手がける。近年は即興演奏を軸とした自由形態バンドRacco-1000を率い活動、フルートなどを担当。 2017年5月、3タイトルが発売された初監修コンピレーションアルバム『コロムビア・ガールズ伝説』の続編として、新たに2タイトルが10月25日発売された。

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