2018年06月12日

1972年の本日、天地真理最大のヒット曲「ひとりじゃないの」がオリコン・チャート1位を獲得

執筆者:丸芽志悟

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1972年(昭和47年)の本日6月12日は、天地真理の3枚目のシングル「ひとりじゃないの」がオリコンチャートの1位を記録した日。その後計6週に渡って1位の座を独走し、売り上げ的にも真理ちゃん最大のヒット曲として歌謡史に燦然と輝く名曲だ。前作「ちいさな恋」に関してのコラムでは、個人的な見解を交えながら初期2作のフォーク路線を総括してしまったので、今回は約束通りその後の快進撃に繋がる要素について、主に音楽面から掘り下げてみたい。


とにかくその快進撃の勢いはのっけから凄かった。3月13日に「ちいさな恋」が1位の座を射止め、4週間に渡りその座をキープ。アルバム・チャートでは、ファースト・アルバム『水色の恋/涙から明日へ』が、2月7日から4月17日までの11週間、1位の座を独走していた。勢いはついた。時代が求めていた国民的アイドルの決定的切り札として、さらなる魅力的な楽曲を提示しなければいけない。そこに登場してくるのが、森田公一である。

65年デビューした原トシハルとBアンドB7のメンバーとして活動する傍ら、初の提供曲となった森山良子の「愛する人に歌わせないで」が評判となり、作曲家として頭角を現しつつ、70年にはそれぞれ別のGSで活躍しながらも花開くことなかった残党達を中心に、自らのバンド、トップギャランを結成。数枚のシングルをリリースする一方、CMソングにも積極的に取り組み、次世代作曲家の一人として注目されていた森田公一。「愛する人に…」を手がけたことで、フォーク系の曲に強みを発揮するコンポーザーというイメージが制作陣の中にあったのかもしれない。となると、この選択も自然な流れと思える。しかし72年春の段階に於いて一曲、彼の名刺代わりと呼べる曲をあげるとするならば、それは花王フェザー・シャンプーのCMソングに起用された「さわやか律子さんの歌」であろう(3月にはのちに紅白歌合戦の定番曲にまでなった「あの鐘を鳴らすのはあなた」がリリースされているが、意外にも当時の和田アキ子のシングル曲の中では振るわない戦績しか残していなかった)。


70年代初期と言えば、猫も杓子もボウリング。どこもかしこもボウリング場は賑わいまくり、女子プロボウラーを主人公としたドラマ「美しきチャレンジャー」は大ヒットした。そのボウリングフィーバーの頂点にいたのが、パーフェクトゲーム連発で社会現象にもなった中山律子だ。アイドル性も抜群で、彼女を起用したシャンプーのCMはその人気にさらに拍車をかけた。歌謡界がもやもやとした霧に覆われていた時代を象徴する、庶民的スポーツ界がもたらした国民的アイドル。そのテーマ曲と言えるものが森田の手によって作られた事実は、その後のアイドル歌謡バラ色の日々を思うと、何かしら暗示的なことのように思える。その曲で提示された「さわやかさん」というイメージは、当然真理ちゃんの勢いを加速するファクターとなった。こうして、歌謡界での大ブレイク曲となった「ひとりじゃないの」をきっかけに、アイドル歌謡作曲家としての森田公一の天下は、75年あたりまで揺るぎないものとなる。

作詞を担当した小谷夏とは、他ならぬ真理ちゃん国民的アイドル化の立役者・あの「時間ですよ」のプロデューサー・久世光彦の別名義である。前年大ヒットし、真理ちゃんのソロ・バージョンもファースト・アルバムでのメイン曲となったマチャアキの劇中歌「涙から明日へ」も彼が手がけた作品だ。こうして駒も揃い、波に乗った状態でレコーディングが行われた「ひとりじゃないの」は、5月21日にリリースされた。

ちょっと陰りあるフォーク路線から、躍動感と明るさが前面に押し出されたポップ路線へ。一気に忙しさの渦に巻き込まれながらも、迷いを振り切ったような伸びやかな歌唱。しかし、何よりも増して恋愛の純な部分を絶妙な言葉の選択で切り取ってみせた歌詞が魅力的だ。「二人は若い」に象徴される前時代的な若者の恋愛模様から、よりモダンなアイドルが歌うに相応しい瑞々しい世界へ。わざわざ引用するまでもないだろう。タイトルを言うだけで、その続きの歌詞もメロディと共に、鮮やかに甦ってくるものだ。


6月12日付アルバム・チャートのトップはライバルである小柳ルミ子に譲ってしまったものの(シングルでは逆に前週まで「瀬戸の花嫁」が1位だった)、その翌週には早々とこの曲をフィーチャーしたセカンド・アルバム『ちいさな恋/ひとりじゃないの』でその座を奪回。再びシングル・アルバム共に真理ちゃん天下状態へと突入した。フォーク系カバー曲が減り、ほぼオリジナルのポップ路線で勝負した力作で、「ひとりじゃないの」は森田公一自らのアレンジによる別ヴァージョンが収録されている。その6月、麻丘めぐみが「芽ばえ」でデビュー。7月には森昌子が、8月には郷ひろみがそれぞれデビューを飾り、真理ちゃんは追い打ちをかけるように9月、「虹をわたって」をリリースする。いよいよ時代はアイドルポップスの萌芽へと、着実に動き始めるのだ。




≪著者略歴≫
丸芽志悟 (まるめ・しご) : 不毛な青春時代〜レコード会社勤務を経て、ネットを拠点とする「好き者」として音楽啓蒙活動を開始。『アングラ・カーニバル』『60sビート・ガールズ・コレクション』(共にテイチク)等再発CDの共同監修、ライヴ及びDJイベントの主催をFine Vacation Company名義で手がける。近年は即興演奏を軸とした自由形態バンドRacco-1000を率い活動、フルートなどを担当。2017年 5月、3タイトルによる初監修コンピレーションアルバム『コロムビア・ガールズ伝説』が発売。また10月25日には、その続編として新たに2タイトルが発売された。 
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